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F1 ニュース

投稿日: 2022.08.15 18:00

幻となったミナルディ。格が違ったフェラーリ。2012年のロータス。タキ井上の記憶に残るF1マシン10選(3)

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F1 | 幻となったミナルディ。格が違ったフェラーリ。2012年のロータス。タキ井上の記憶に残るF1マシン10選(3)

 英国テレビ番組トップギアの企画で、2014年にフランスのポールリカールで乗りました。キミ・ライコネンが2012年のアブダビGPで勝った車両ですよね。誰が乗っても、それなりに走らせられるF1マシンだと感じました。

 僕が現役当時のF1マシンというのは、エンジンが1000馬力もあるのにエンジンやシャシーの制御面はまだまだ技術的に未熟だった時代です。でかいウイングがあるだけで、よくもまぁアイツらそんなクルマに乗れるよなという時代でした。

2012年F1アブダビGPを制したキミ・ライコネン(ロータス)
2012年F1アブダビGPを制したキミ・ライコネン(ロータス)

 ところがこのF1マシンは、「これは子供が乗っても同じラップタイムで走れるわ」というくらいに乗りやすいクルマでした。ピットガレージからの発進の際も、「オートローンチはオンにしてあるから、スロットルは踏まないでください」とエンジニアから指示されるわけです。クラッチをすーっと離すだけでOK。逆にスロットルを踏んだらエンストしてしまう。コースインしてようやくスロットルを踏んで、ようやく普通のクルマの操作を受けつけるという具合でした。やっぱりよくできたクルマでしたよ。

 ステアリングは軽いし、切ったぶんだけクルマは曲がるし、なにしろ空力が自分の時代とはぜんぜん違いました。ここは行けないと思うコーナーでも、スロットルをオフにしてはだめ。もっとスロットルを踏めば、ダウンフォースの力で簡単に曲がれる。僕の知っているF1マシンじゃない。と言ってもそれは10年前のクルマだから、いまのF1マシンはもっと簡単なのでしょう。

 もう10年以上前から、サルが乗っても、カバが乗っても、クマが乗っても、きちんと操作すれば同じラップタイムで走れる。大きなタマも必要無ければ、汗をかいて頑張る必要も無い。むしろ、クールに繊細にアクセル操作やブレーキ操作するだけで良い。ゲームと同じ感覚なのかも知れない。僕の知っている1995年までのF1マシンは、コクピットの中で汗をかいて働くというイメージで、ブレーキングもコーナリングも“えいやっ”という感じだったけれど、もはやそういう時代ではないのでしょう。

■タトラ623R(番外編/レスキューカー)

 F1マシンではありませんが、1995年F1ハンガリーGPで消火活動中に見たこともないレスキューカーに跳ね飛ばされました……(汗)。

 記憶に残るという意味では、自分にとっても、世界のF1ファンにとっても、あれが一番インパクトあるできごとかもしれません。僕のもうひとつのF1デビューとも言えるでしょう。

 それにしても、あれはなんなんですかね? いまの時代だったら完全に赤旗(レース中断)でしょう? こっちは身体の痛みに耐えているというのに、セーフティカー(SC)さえ入らず、レースはジャンジャンバリバリ継続していたのですから。

 競技は継続したまま救急車が来て、自分はそれに乗せられてメディカルセンターに搬送されて……いまの時代からしたら信じられないですよね。それはともかく、僕はすぐにブダペスト市内の病院へメディカルヘリコプターで移送されると思っていました。

 しかし、のちにF1レースディレクターとなるチャーリー・ホワイティングがメディカルセンターへ顔を出して、「ごめんタキ。いまメディカルヘリコプターを離陸させるわけにはいかない。離陸させるとなると、それはレース赤旗中断を意味する。だからレース終了まで待ってほしい」と言うのですよ!

「いや、痛いんだけど!」と彼に虚しい抵抗を返したことを憶えています。

1995年F1ハンガリーGPで起きた“事件”。タトラ623Rにはねられた井上はその場にうずくまる。
1995年F1ハンガリーGPで起きた“事件”。タトラ623Rにはねられた井上はその場にうずくまる。


(了)


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