こうして迎えた土曜午後のレース1は、スタート直後に背後からビョークとエルラシェールのリンク&コー艦隊に並ばれたジロラミだったが、リスボアに向けポールシッターの優位を守ることに成功。そのうえで7番手から電光石火のスタートを切った僚友アズコナがブレーキング勝負でビョークを仕留め、そのバトルに乗じたホンダのエステバン・グエリエリ(ゴート・レーシング/FL5型ホンダ・シビック・タイプR TCR)も4番手に浮上してくる。
これでヒョンデの2台に前後を挟まれる格好となったエルラシェールは、首位ジロラミとのマージンを詰めつつも、タイトル獲得に向け無理をせず。さらに7周目には勢いそのまま襲い掛かって来たアズコナにも先行を許し、そのまま10周を終えてジロラミがトップチェッカー。ヒョンデのワン・ツーを形成したアズコナに続きエルラシェールが表彰台に上がり、手堅く3度目のワールドタイトルを獲得した。
「3度の世界チャンピオン、本当に素晴らしい気分だ」と喜びを語ったエルラシェール。「これは僕の夢であり、キャリア目標でもあり、だから毎日この目標を達成するために目を覚ましているんだ」
これで前戦にも獲得を決めていた3年連続のチームチャンピオンシップに続き、シアン・レーシングはダブルタイトル獲得の栄誉となった。
「特に終盤は大きなプレッシャーを感じた。そして今日はネストール(・ジロラミ)の勝利を祝福したい。マカオで勝つのはいつも素晴らしいことだ。僕らは30kg重いにも関わらず、スタートはネストールより良かった。でも、ミケル(・アズコナ)が戻ってきたのを見て、彼を行かせて前にいる選手たちに任せようと思ったんだ」とレース中の思考を明かしたエルラシェール。
「マカオでの勝利はマカオでの勝利だから、勝てるペースがあると感じていた。でもミスをしないことに集中していたし、リスボアからは彼らに任せたよ。今はとてもうれしい。あと1レース。失うものは何もない。とにかく楽しむだけさ。そして4度目のタイトル獲得に向け切り替える。だから1日だけ楽しむ時間が欲しい。それから来年のことを考え始めるよ!」
そしてすべてが決した後に迎えた日曜のレース2は、リバースポールのバカンが大仕事を成し遂げ、プレッシャーにも屈することなくポール・トゥ・ウィンを飾る結果に。
スタートで出遅れ、背後のマ・キンファ(リンク&コー・シアン・レーシング/リンク&コー03 TCR FL)にリスボアまで並走されたが、オーストラリア出身ドライバーはイン側のレーシングラインをキープしてリードを維持。最終ラップでは新王者エルラシェールと昨季王者ミケリスが接触する場面もありつつ、ヒョンデ陣営サテライトのバカンが、マとビョークの前でチェッカーフラッグを受けた。
「もしサイド・バイ・サイドでもマンダリンのイン側にいれば、おそらくポジションは獲れるだろうと思っていた」と冷静に振り返ったギア・サーキット初制覇のバカン。
「最大の問題はスタートだった。マシンをラインから送り出すのに本当に苦労したし、最初の20mが重要だった。そこからはサイドドラフトを避け、他のマシンにトウを任せてマの対応を手伝ってもらう、それが作戦だった」
そこからは背後のマ・キンファを相手に容赦ないディフェンスを展開し、初参戦での優勝を果たした。
「普段はレース戦略を綿密に練ってレースを組み立てるが、今回だけは計画がなかった。とにかくアタックする。クレイジーだったよ(笑)。プレッシャーが掛かったせいで、思ったよりもずっと早くタイヤがオーバーヒートしてしまったんだ」と続けたバカン。
「ブレーキバイアスを調整し、ハンドリングを取り戻すためにあらゆる手段を講じた。そこでのレスポンスは非常に良かったから、それが助けになったが、最終的に僕にとって1番の問題はセクター1で、それ以外の部分ではマシンは素晴らしかったね」
これでシーズンの全日程が終了したFIA TCRワールドツアーは、世界統一戦的な触れ込みだった『FIA TCRワールドランキング・ファイナル』こそ開催キャンセルが確定したものの、来季のアジア・ラウンド拡大がアナウンスされることに。またマカオの現地週末では、来季2026年に向け複数のマニュファクチャラーによる“TCR新規参入”も噂されている。






