最終戦アブダビGPの決勝日。午後4時39分、スタートラインから遠く離れた16番グリッドにFIA会長のジャン・トッドが訪れた。初めてパートナーを組むレースエンジニアのニコラ・パラキと話し合っていた小林可夢偉は、予想もしていなかった来客の登場にパラキとのミーティングをしばし止め、トッドに正対した。トッドは可夢偉と握手をしたあと、二言三言声をかけ、最後に肩を叩いて、健闘を祈って別れた。

 再びミーティングに入った可夢偉とパラキ。しばらくすると、今度はメカニックたちが集合して、みんなで可夢偉の名前を呼んだ。シーズン最終戦のグリッドで、このような集合写真を撮るのは初めてだった。

 その後、アブダビの国歌を聞くためにスタートラインへ行き、全ドライバーとともに整列。他のドライバーたちが国歌斉唱が終わると慌ただしく自分のグリッドへ帰るなか、可夢偉はひとりスタートラインに立って、ホームストレートの先を見つめていたのが印象的だった。グリッドへ戻った可夢偉は、ヘルメットを着用するためにフェイスマスクを被る。すると「F1のレースでマスクを被るのも、これが最後かなあ」と思いがこみ上げてきたという。

 スタートのタイヤにはスーパーソフトを選んだ。

「予選のペースからしてスタート直後しかライバルたちとは戦えないから、ちょっとでもいいところを見せようとして選んだ」という可夢偉。1周目のターン11でエイドリアン・スーティルを力づくで抜いた。

 しかし、その直後からブレーキに違和感を覚え始める。

「3周目ぐらいからブレーキにタイヤかすが入ったみたいで、左後ろがオーバーヒートして、だんだん片効き状態になっていった」という可夢偉のマシンは、そのうちブレーキを踏むと勝手に右側へステアリングが取られてしまうほど、症状がひどくなっていった。

 そして42周目、ついに終わりの時を迎える。「バイブレーションも起こり始めた」可夢偉は、チームからピットインするように言われ、ガレージに戻される。

「結果的にはトラブルが出て、最後まで走りきることはできなかったけど、今週末チームはここまで本当によくやってくれた。最終戦に戻ることなく、ロシアで終わっていたら、モヤモヤして今シーズンを終えることになっていたかもしれないので、ここでレースをやらせてもらったことに感謝したい」

 そう言うと、可夢偉は会見を打ち上げ、ピットレーンで待つ仲間たちの元へ行き、チーム全員と再び集合写真を撮った。その後、メカニックやエンジニアと代わる代わるツーショットの撮影に応じ、彼らが胸に下げているパスにサインをしていった。

「来年のことは、自分でもわからない」という可夢偉。まずは「4年間にも感じた長い1年」を終えた今、ゆっくり休んでほしい。

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