「リヤをロックしてスピンしたのは僕のミス」

 潔く認めながら、ルイス・ハミルトンはこう付け加えた。

「それでも今日のレースには本当に満足している。いちばん重要なのは、僕がニコよりずっと速いペースを備えていたことだ。スピンの後も7秒の遅れを挽回したし、それは彼も見ていたはずだと思うよ」

 フリー走行から予選まで、すべてのセッションでニコ・ロズベルグが先行した週末。それでもレースになれば自分のほうが速かったと、ハミルトンは自信を崩さない。2位で終わったのは28周目のターン4が原因。ロズベルグがピットインする前には1秒だった1-2位の間隔は、2周ステイアウトした2周目のミスによって7秒まで開いた。しかしその後の第3スティントで2秒差まで挽回し、第4スティントに入ると同時にDRS圏内まで迫ったのだから、たしかにレースペースはハミルトンのほうが速かった。トト・ウォルフも「おそらく、28周目のスピンが決定的だった」と認める。

「あれによってニコには息をつく余裕が生まれた。ペース的にはルイスのほうが速さを備えているように映ったが、ニコはあそこからゴールまでプレッシャーを上手く吸収していったと思う」

 28周目のターン4でリヤをロックさせたハミルトンがスピンしなければ、ロズベルグはレース距離の半分以上、第3~第4スティントを通してチームメイトを抑え続けることが可能だっただろうか――ニコは核心には触れず「オースティンで抱えた課題を克服した」とだけ表現する。実際のところ、レースの主導権を握っていたのはどちらだっただろう?
 

 ポールポジションから首位を守ったのはロズベルグ。誰もがもっとも苦労したのは路面温度が53~56℃まで上昇した第2スティントのミディアムで、ほとんど全員の右フロントにブリスターが発生した。26周終了時点でロズベルグもピットイン。しかしそれと同時に「プッシュ」という指令を受けたハミルトンは、1秒近くペースを上げて27周目にはファステストを記録。さらに、28周目もステイアウト――。

「プッシュするのは1 周だけで、次の周回にはピットインだと思い込んでしまった」と、ハミルトンは説明する。「僕はあの1周でそれまでセーブしてきたタイヤを使い果たしてしまった。28周目にはもうタイヤの力が残っていなかったんだ」

 1コーナーですでに、それを感じていたのだろう。スピンの後、ハミルトンはピットに伝えた。「ごめん。ブレーキバランスを後ろに振りすぎた」

 しかしタイヤ交換の数ラップ後、第3スティントのペースを少しずつ上げながら「プッシュするタイミングを教えてほしい。本当にアタックできるのは1ラップだけなんだ」とも伝えている。連続して攻めるとタイヤがオーバーヒートしてしまうのだ。

 同じ頃、ロズベルグ側では5秒ほどのギャップをコントロールするよう指示が飛んでいたが、第3スティントを10周ほど走行したところでニコが言う。

「ギャップのことはもう伝えないでほしい。しばらくの間だけ、頼む」

 そこからハミルトンは1周あたり0.3秒のペースで間隔を詰めてきたが、ロズベルグにとって第3スティント後半は自分のペース、自分のドライビングでタイヤ管理を磨く貴重な周回になった。第3スティント最後の間隔は2秒。3度目のピットインを終えると、アウトラップから速いペースのハミルトンが一気に0.5秒後方まで迫ってきた。

 しかし、第4スティントでは最初から最後までDRS圏内からロズベルグを攻めながら、ハミルトンには抜けなかった。オースティンと違うのは、インテルラゴスではタイヤの性能低下が大きく、前のマシンに近づくとインフィールドでタイムをロスしてしまう点だ。ターン9、ターン11を上手く脱出してターン12のブレーキングで真後ろにつけなければ、出口で引き離されてしまう。“全開”と言っても、大きく弧を描くターン13、ターン14では前後方向と横方向、同時にGがかかるため乱気流を受けるとタイヤに厳しい。DRSゾーンが始まるのはずっと先――ハミルトンが毎ラップのようにセクター1の区間ファステストを更新しても1コーナーでオーバーテイクをしかけるところまで到達できなかったのは、その手前で引き離されていたからだった。1コーナー手前のTポイントはハミルトン334.4km/h、ロズベルグ318.8km/h。しかしこれはロズベルグが余裕をもって減速していたからで、コントロールラインの通過速度はハミルトン335.1km/h、ロズベルグ333.3km/h。追われているように見えても、ロズベルグの動きはハミルトンよりずっと安定していた。1年前までは、引き離さないことによって相手のタイヤにダメージを与えるのは、首位を走るドライバーに許された作戦のひとつだったのだ。

「あのストップのことは、申し訳ない」と、ゴールの後でエンジニアがハミルトンに言った。2周のステイアウトは失敗。しかしチームは終盤の展開を予測して“他に選択肢がない”ということを知っていたのかもしれない。

 久しぶりのタイヤ耐久レースでは、首位を走るアドバンテージが戻ってきた。シーズン10回目のポールポジションを記録したニコが、得意分野を勝利に活かすことに成功した。緻密にセットアップを仕上げ、ドライビングの自信へとつなげるロズベルグが“静”なら、トライ&エラーを繰り返しながら最終的には速さをつかみ、攻めるレースを得意とする“動”のハミルトン。「1レース遅れたけれど、課題を克服して大きく進歩することができた」というニコの言葉が本物なら、ふたりの力は拮抗する。17ポイントの差は小さいのかもしれない。

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