「メルボルンでは可夢偉のレースを見るチャンスがなかったから、彼がどういうふうに戦うドライバーか、ここで目にすることができて本当に嬉しい」
レース後のミーティングが始まる直前、ケータハムのトラックサポートリーダーを務めるルノーのセドリック・ストドアは、一緒に戦えた初めてのレースを笑顔で振り返った。
「レースの終盤にも、ラップタイムを向上していったよね! 我々は可夢偉がこのレースで行なった仕事にすごく満足している。というのも、彼に要求したのは楽なことではなかったから――スタートからゴールまで、ステアリング上の操作で色々な変更を行うよう、我々はすごい頻度で可夢偉にリクエストしていた。ドライバーの仕事は複雑だったと思う。でも、可夢偉はすべてを完璧にこなしてくれた」
セパンでも、可夢偉はフリー走行をほとんど走れなかった。しかしセットアップもままならないまま、レースを完走した意味は大きい。とりわけ可夢偉との共同作業によって貴重な実走評価ができたと、ストドアはその収穫を語る。
「セパンでは、メルボルンより最適に近いパワーユニットの使い方を目指した。変化する天候条件ではエンジンセッティングの調整も必要で、とくに点火時期を早めて限界でエンジンを使用するということを行った。レースでは、我々のエネルギーマネージメントの作戦をすべて、実走評価することができた。エネルギーの観点から1レースをきちんと管理できたのはとても満足できる結果。特に可夢偉の場合は、現在の条件のなかで我々の作戦を最適化することに成功したと思う」
冬のテストでは、ルノー勢の中でレースシミュレーションを行えた唯一のチームだった。そんなケータハムが、開幕戦以来トラブル続きでほとんど走れなかった。
「バーレーン・テスト最後の2日間は100周以上走行して、すべてが正しく作動した。しかし、本当のテストが行えたのはあの2日だけだったとも言える。メルボルンに到着したときから、我々はテストで目にしなかった問題を経験してきた」
開幕戦の初日。可夢偉が走れなかったのは燃圧が上がり過ぎたためで、これは車体側に起因する問題だった。そのトラブルを解消して臨んだセパンでは、バッテリー(パワーユニット)と、オイル漏れ(レッドブル製クラッチ)のトラブルで金曜1日を失った。クラッチ周辺でのオイル漏れは、開幕戦のレースでエリクソンが経験したものと同じ。さらに可夢偉は、土曜のFP3にもエンジンに空気が届かない問題を経験した。
「問題はパワーユニット、車体、サプライヤーのパーツと、いろんなところに起因する。でも総体的に見て言える難しさは、何かひとつでも問題が起こった場合、パワーユニットを下ろすことになるとそれで1セッションを失ってしまう点にある。今年のマシンはそれくらい複雑に組み合わさって車体と一体になっているから。
エンジンやERSそのものに関しては、事前にベンチで試験をして問題があれば修正することもできる。ただしマシンに搭載した際のコンディションはベンチテストとは異なるし、搭載の方法はチームごとに微妙に違っているため、温度やマウントによる問題が起こることがある。可夢偉の走行を妨げたトラブルはしばしば、パワーユニットと車体が相互に干渉して引き起こされたものだった」
マレーシアGPでレース距離を走ったことによって、バーレーンからすぐに活かせるデータは数多い。ただし2台が完走したからといって、信頼性の問題がすべて解消したとは言えない。
「複雑なマシンだからトラブルが発生する可能性は様々なところにあるし“問題が起こるかもしれない”と常に備えておくことは必要だ」と、ストドアは楽観していない。しかし同時に、毎レース、コースインするたびにパワーユニットの使い方を改善していることも事実。
「現場でもファクトリーでも、我々は常に自分たちの“最大限”にトライしている。ファクトリーも必死の作業を進めているから、ここから2週間……いや1週間で多くの改善がもたらされるはずだ。我々ももちろん、ベストを尽くしていく」
可夢偉にとっては、ガレージにいるだけで走行できない辛い時間が続いた。それでも、チームの中で彼が苛立ちを見せるようなことは「一度もなかった」と、ストドアは可夢偉の人間性にも信頼を寄せる。
「可夢偉は、チームを正しい方向に引っ張っていける人間だと思うよ! 『進むべきはこの方向だ』と言えるドライバーは非常にポジティブな存在だし、セパンのレースで可夢偉が行った仕事は、本当に完璧だった」
一緒に前進していける。可夢偉はルノーにとっても心強いドライバーだ。