今年で3年目のパイクスピーク参戦となるミツビシ。同車が誇る電動車両技術と四輪制御技術を結集した専用開発のニューマシン『MiEV EvolutionIII(ミーブ・エボリューション・スリー)』を今年は2台投入し、電気自動車改造クラスのクラス優勝を目指すという。そんな同チームでエースドライバーを務めるのが、ご存知ダカール・ウイナーの増岡浩だ。その増岡に、パイクスピーク・ヒルクライム特有の難しさを聞いた。
「コースが全面舗装路になって以降は、とにかくグリップとダウンフォースの重要度が増しました。近頃のマシンはみんな大きなウイングを付けてますが、極限近くにまでになってくると、まだまだ足らないな、っていう感じです」
標高1400m付近のスタート地点から4000mを越えるゴール地点へと駆け上がると、「明らかに空気密度が変化するのが体感できて、ダウンフォースが効かなくなってくるのが分かる」と増岡。そのあたりの対策も、入念に行ってきたという。
「昨年のイベントが終わった段階で計画を練って、年が明けてから製作をスタートしました。走り込んだのは1週間くらいですが、そこまでの開発やシミュレーションは、岡崎(三菱自動車研究所)のエンジニアと細部まで詰めてきました。ウイングとかは岡崎の市販車と同じ風洞で決めてますし、エボⅨなどの開発をしてたエンジニアが担当してくれました。当時、エボに採用された“ボーテックスジェネレーター”とか、空力にも凝ってた時代のね。ただ、今回のMiEV EvolutionIIIは、フロアでダウンフォースを稼ぐクルマですけどね」
「もちろん、現地に入ってからも微調整は必要でしょう。でもすでにセッティングはふたつ(良いモノを)見つけてあります。ただし気を付けないといけないのは、結局日本のテストコースだと、上りながら入るコーナーというのが完璧にはシミュレーションできない。それを見越した上で、ひとつは良いセッティングが見つけてあって、もうひとつは駆動を前寄りにして……というのは勾配対策ですね。基本的にはクルマの駆動力は50:50にしてあります。また、戦略的には昨年が予選1-2だったにも関わらず、結局(決勝スタート時)は雨でやられちゃったので……。2台のスタート順をばらけられればならないとも思います。雨が上がれば路面が乾くのはスゴく早くて、昨年も雨の後は路面から湯気が立ってました。スタート地点はTシャツで良くても、ゴールはジャンパー必須なんてのも当たり前。だからタイヤの内圧、温度管理もすごく重要になります」
リチウムとはいえ、大容量バッテリーを積む分だけレーシングカーとしては重い部類に属する『MiEV EvolutionIII』。だからこそ、日本で行ってきたダンロップとの共同開発は、重要だったと振り返る。
「重さの分だけ、どうしてもタイヤに負荷は掛かります。たわんでしまえばグリップは落ちますし、その中での良いたわみ具合と構造、コンパウンドを見極めなければ。発熱の仕方、路面、条件変化のノウハウを入れて、手応えはありますね。ウエットのテストも十分にこなしてきましたし」
平均勾配は7%前後。これは高速道路の登坂車線より急坂、といえばイメージが湧くかもしれない。当然、ドライバーの視界も独特の世界になってくる。
「レーシングカーの視線だと、空しか見えない。それでコーナーに入って行かなきゃいけないんです。コースは変わらないですけど、毎年車速は上がってくる。すると、体感のコース幅が全然変わってきちゃう。見える景色も変わりますし、全長20kmの中にパリダカを凝縮したような、コーナーのひとつひとつがすごく大切で、それを攻めていく難しさはありますね」
そのコース攻略として、増岡は初年度からコース全図を作成し、それと航空写真を照らし合わせ、現地に入ってからは各コーナーのカントやバンプなどをすべてチェック。100%インプットして本番に臨んでいるという。
「もともとターマックはキライじゃないですし、突き詰めてくと基本は(ラリーレイドとも)一緒ですね。速度が上がれば上がる程、いかにゆっくり操作できるか。挙動が乱れなければ、踏んでいけるわけですから。タイミングはなるべく早め。ゆっくり切って、ゆっくり戻す。アクセルもすごく丁寧にします。踏むのも、戻すのも。荷重異動を最低限にして走れば、こういうクルマも結構言う事は聞いてくれるもんですから」
今年で92回目を迎える「伝統のお祭り」は、どのドライバーにとっても“ワンアタック”勝負。極限の環境での緊張感こそが、走る者も見る者をも惹き付ける、魅力の源なのだろう。