今シーズン、見事F1に復帰した小林可夢偉。昨年最下位のチームながら、これまでの前半戦で常にチームメイトの成績を上回り、ケータハムがマルシャやザウバーを倒すための切り札としてF1関係者の間で高く評価されている。トラブルが多い状況でも、ドライバーとしての評価を上げた可夢偉。レースでのパフォーマンスは一目瞭然だが、実際はどんなキャラクターなのか?

 これまでレースの話を中心にしたインタビューは数多くあれど、プライベートや趣味についてじっくり聞くチャンスは、ほとんどなかった。今回は、可夢偉が読者からの質問に答えるべく、特別に時間を割いてくれた。

 通常、F1ドライバーのインタビュー時間は最大15分。しかし、可夢偉選手の配慮によって、なんと1時間近く、硬軟おりまぜた様々な質問に時間を延長してお答えいただきました。コース上の姿だけではわからない、本邦初公開(?)可夢偉選手の素顔に迫ります!

 まずは、Part1<レース関連編>からお楽しみください。

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今季マシンの乗り心地はどうですか。ドライビングは難しいと言われていますが、どんなところが以前と変わったのでしょうか。

「乗り心地は悪くなったと思います。ダウンフォースがなくなってクルマが安定しないし、あと、トルクデリバリーというか、トルクが上がっているぶん、ハンドリングが難しい。アクセルを踏みすぎると、加速でトルクが太くて、ダウンフォースが減ってグリップも減っているからホイールスピンしやすい。それをコントロールするのが難しいですね」

2009年にF1デビューを果たしたトヨタのマシンはどうでしたか。もし、あのマシンで1シーズン走ったら、どのくらい活躍できたと予想しますか。

「結構いいところ行けたと思いますよ。(デビューから2戦目の)アブダビの時点で、本当に表彰台を獲れそうでしたから。レース中盤くらいに『今、表彰台争いだから』って言われたときに『ウソやろ!?』『そんなわけないやん!』って思った。第1スティントの感触のままだったら表彰台は獲れていたと思います(※多くの上位マシンが2ピット戦略を選ぶなか、可夢偉は1ピット作戦)。オプションタイヤで燃料が軽い状態で練習走行で走っていなかったからなあ。テストでもずっと燃料が重い状態でしか走っていなかったから、軽いときにタイヤを使っていい、プッシュするという走り方を全然練習していなかった。それでもプライム(タイヤ)で速かったから、そのままなら表彰台に行ける速さだったけど、オプション(タイヤ)でもっとペースが上がるかと思っていたら全然上がらなかった。経験が足りなかったということだけど、それでも6位に入ったくらいですからね」

F1、他のカテゴリー問わず、これまでに乗ったマシンで一番よかったもの、印象に残っているクルマは?

「一番印象に残っている……難しいな……もっといいクルマに乗りたいですけど、乗ったクルマで、ですよね? そんなにいいクルマに乗っていないような……これから乗れるということで! 1回でいいから一番速いクルマに乗りたいよね〜! このクルマが一番いいよ、というのはホンマに乗ってみたい!」

もしも担当レースエンジニアが日本人になったら無線交信は英語、日本語どちらでしょう? 日本語は他のチームに聞かれても内容を隠せますが、デメリットもあるでしょうか

「英語ですね。僕、これまで一度もレース中に日本語で伝えたことがないです。そういえば昔、日本でF3のトムスのテストで乗ったときに『クルマがこうって、どうやって日本語で伝えたらいんやろ?』って考えてしもた。F1に来てからはインタビューとかあるので日本語でも伝えられるようになりましたけど」

チームラジオで、よく喋るほうですか?

「しゃべんないです。無言です」

自分がレギュレーションを決められるなら絶対これを導入する、もしくはこのレギュレーションをなくす、変えるというものはありますか。

「いっぱいありますよ! まずエンジンをV12くらいにして(笑)。タイヤ戦争を始める。ダウンフォース自由、全部自由で、ただ、コストだけが年間100億円という制限がある。それだと、面白いんじゃないかなあ? バジェットさえ決まっていたら、自由でいいですよね」

レースに興味を持ったきっかけは?

「もともと最初はレースに興味なかったんですよ。クルマが好きで、クルマに乗りたかった。クルマに乗りたいけど、年齢的に乗れないからレンタルカートに乗って、それでレースを始めた。それが9歳の時です。もっとずっと早いときからクルマには乗りたかった。だからレースをしたいというより、クルマを運転したくてゴーカートを始めたんです」

ドライバーとして自分に足りないもの、もっと伸ばしたいと思うところはありますか。

「もうちょっと、イメージよく生きていきたい。自分自身のイメージをもっとよく(周囲のスタッフが苦笑)。僕は頑張っているんですけどね! なんか、よくないイメージがあるみたいで」

マルシャのジュール・ビアンキさんと同じパフォーマンスの車に乗ってレースをしたら1周で何秒くらい早く走れそうですか。コースによっても違うと思うので、鈴鹿サーキットではどうでしょう?

「そんな、1周で何秒もの差は実際には無理でしょ! いや、質問ありがとうございます。負けるとは思わないけど、秒単位は無理ですよ。そんなに簡単じゃないです」

F1以外のカテゴリーで乗り心地を試してみたいマシンはありますか?

「F1以外で……戦闘機を運転してみたい。ジェット戦闘機。戦闘はしないですけどね(笑)」

インディカーについて、どう思っていますか?

「インディカー……レースをまともに見たことがないからなんとも……。今はアメリカのレースにそんなに興味はないですね」

スプリントレースと耐久レースなら、どっちに自信がありますか?

「両方!」

近い将来、可夢偉選手に続いてF1ドライバーになれる若手日本人はいると思いますか?

「いや〜、今は非常に厳しいと思います。他のスポーツでもそうだと思いますけど、ちゃんと若手を育てるバックアップの体制がないと選手は育たないです。日本のレース界にそういうシステムが確立されないと厳しいんじゃないかな」

現役F1ドライバーでチームメイトになりたいのは誰ですか。また(現役に限らず)チームメイトになってみたいドライバーは?

「全員! 全員です。誰でもいいですよ」

スタート直後、他マシンとの接触を避けるために気をつけていることは?

「それはもう、自分のポジションを奪われたくなかったら早めにブレーキを踏んで、守ることですね。あとはタイヤの温度とブレーキの限界をきちんと把握してブレーキングする」

テレビカメラに間近で表情を撮られるのは好きですか、嫌いですか。

「テレビも写真も、正直撮られるのはすごく苦手です! でも、撮るほうは好き(笑)」

レース前のドライバーズミーティングで積極的に発言しますか。これまでに何か発言したことがあれば教えてください。

「発言しないですね。笑かしているくらい(笑)」

ヘルメット、レーシングスーツ、グローブ、ドライビングシューズは通常、何レース使いますか。汚れたり、汗をかいたらヘルメットの内装など洗濯して使うことはありますか。

「スーツは1年間通して4着くらい使っています。ヘルメットは3〜4レースごとにひとつ。グローブは4つくらいを1シーズン使い通す。今のF1はそんなに運転する時間がないから少ないですね。昔みたいにガンガン走るわけでもないですから。シューズも1シーズン1足。このあいだ新しいのを履いたけど、前の古いのに戻しました」

メンタル面の安定のために心がけていることはありますか。日常のメンタルトレーニングなど、やっていることがあれば教えて欲しいです。

「メンタルという言葉が出ている時点でダメなんだと思う。実際、メンタルですべて変えられるんですよ。痛くないところも痛いと思えるし、お腹が痛いと思うこともできるし、風邪ひいていてもメンタルで治すこともできる。それは治すんじゃなくて、気にしないということ。メンタルでなんでも変えられるんです。だから、普段は気にしていません」

2012年の鈴鹿で獲った3位のトロフィーは今どうしていますか?

「手元にないんですよ。(スタッフから「チームにあります」)だから、名誉だけです。ありがとうございました!」

もし自分が乗るF1マシンのデザイナーを自由に選べるとしたら誰に頼みたい?

「それはエイドリアン・ニューウェイ様じゃないですか?」

F1デビューしてから、他のドライバーにサインをもらったことはありますか。

「ないです。どんだけミーハーやねん! 契約書のサインだったら欲しい!(笑)」

F1の世界にはイタズラ好きが多い(ベルガーとか)イメージがありますけど、可夢偉さんがやった、やられたイタズラで一番傑作なのは?

「いたずらしないです。いたずらも……されないですね。昔のF1はひどかったみたいですけど。今はしないですよ。冗談を言うのは、よくある」

F1で一番腹が立ったレースは?

「それは今シーズン、毎レース腹が立ってる!」

F1で一番ビビった事故は? 2012年ベルギーのオープニングラップですか。

「スパのグロージャンも……全然あせるほどのことはなかったですね。のちのちリプレイとか見てヤバかったなと思うことがあっても、前もってヤバイというのはないですね。僕、カートの頃からひっくり返ったりする事故ってないです。細かいのはあっても、これはヤバイという事故は今までないです」

F1で一番苦手とするサーキットはどこですか?

「モナコ。面白くないです」

F1ドライバーになって「F1ってやっぱりすごい!」って思ったのはどんなときですか?

「年間で22人しかいないということですね。今まで宇宙に行ったことのある人数と変わらないんじゃないですか? それよりもっと少ないかもしれない」

F1を引退したら、スーパーフォーミュラなど日本のレースに参戦しますか。もしくは一切レースはやめる? それともチームを作ったりしますか。

「引退とかあんまり考えたくないですけど、チームをやってもいいし、日本で走ってもいいし、どっちにしても、その時々で楽しいことをやりたいですね。一番は、何かきちんと意味があることをやりたいということ」

トークもうまい可夢偉さん、F1に詳しくない一般の人にも受けそうな、F1のキャッチーな話題やネタがあったら教えてください。

「その『うまい』の意味がわからへん! ひと言で? F1とは……変態の集まりです! (なんで?) そりゃそうでしょ、変態でしょ! そんな、『このボディの段差がダウンフォースを生んでいるんですよ』なんて、一般の人からしたら『おまえら、変態やろ』って思うでしょ。結局、何かを極めようと思ったら、みんな変態になるんですよ。F1にも、かなりの人数の変態がいます(笑)」

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 第1回目のレース編、いかがでしたか。可夢偉選手のフィロソフィーが、ところどころに見えたのではないでしょうか。実は、とてもシャイな面があるというのも意外なところ。そして、ぶっきらぼうに見えて、細かい気遣いや自分のやりたいことをきちんと明確にもっていることが伝わるのではないかと思います。F1を憧れの場所ではなく、職業と捉えているところも可夢偉選手らしいのではないでしょうか。

 次回は、あまり語られる機会のない可夢偉選手のプライベートを含めた読者からの質問にお答えいただきます。第2回も、お楽しみに!

☆読者のみなさまからいただいた質問を編集部でまとめてインタビューしました。[Red5]さん[とにお]さん[としきち]さん[せいち]さん[たかっしー]さん[松田祐輔]さん[Ryosuke]さん[カワサキ]さん[Ryuta]さん[けいち∞日和]さん[杉さん]さん[松本幸宏]さん[yuyu]さん[樋口貴則]さん[匿名]さんの質問を採用させていただきました。どうもありがとうございます!

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