スクーデリア・フェラーリのピットガレージには、Shellの“トラックサイドラボ”と名付けられた施設がある。この施設はヨーロッパ内のグランプリだけでなく、世界中を転戦するスクーデリア・フェラーリと共に旅をし、そのパフォーマンスを支える重要な役割を果たしている。もちろん、先日行われた日本GPにも、この“トラックサイドラボ”が持ち込まれていた。では、この施設ではいったいどんなことが行われているのか? 日本GPの際にお邪魔させていただき、その仕事内容をお知らせいただいた。
※写真はクリックで拡大します。
ガレージの片隅に設置されたコンテナ状の小部屋。これが、Shellのトラックサイドラボだ。内部は大人が4人ほど入ればいっぱいになってしまうほどの狭さ。中にはモニターや様々な実験装置が、所狭しと並べられている。
ラボの名の通り、この施設はShellがF1用燃料を現地で検証するために設けられた実験室。使用前/使用後の燃料を分析し、その状態を調査するのだ。また、オイルの分析もこのトラックサイドラボで行われる。
F1の燃料は、基本的には一般市販ガソリンと同じ物を使用することと定められている。そのため、成分もこと細かに規定されていて、それに合致した燃料のサンプルを各グランプリ前に提出しなければならない。また、走行後にも燃料のサンプルが採取され、事前に提出されたサンプルの成分と比較され、同一のモノと認定されなければならない。
エンジニアによれば、F1用燃料と市販車用燃料の成分差は約1%だという。この1%の中には着色成分も含まれていて、市販ガソリンがオレンジ系なのに対し、F1用は無色透明である(ガソリンはそもそも無色透明のため、市販ガソリンは区別しやすいように着色することが法律で決められている)。この1%の差異の中には当然パフォーマンス向上のための差異も含まれていて、サーキットの特性や気象条件等に応じて、微量ながらもその配合を現地で調整しているという。
上の写真は、燃料の分析結果を表したグラフを写真に撮ったもの。一見紫色の線一本に見えるが、拡大して見ていただくと、赤と青の2本の線があることが分かる。青はFIAに事前に提出したサンプル、赤はフェルナンド・アロンソが日本GPのフリー走行1回目で走行したマシンから抜き出されたガソリンの分析結果を示している。我々がトラックサイドラボを訪れたのが金曜昼であるから、まさにその直前に使用された燃料が、もう分析され、レギュレーションに合致しているか、不純物が含まれていないかなどを検査する。また、収集されたデータはすぐに本国の研究室に送られ、さらなる性能向上を目指すべく、研究開発が進められる。
Shellとフェラーリの強力なタッグにより、現在のF1用パワーユニットの性能は、以前に比べて格段に向上した。例えばエネルギー効率。エネルギー源(F1の場合はガソリン)が本来持つエネルギーのうち、どれだけの量を走行エネルギーに転換することができたかを示す数値だが、Shellのエンジニアによれば「相当向上した」という。彼らは具体的な数値を示さなかったが、現在のF1パワーユニットのエネルギー効率は、40%台だと言われている。市販車の、例えば燃費の良いハイブリット車でも、その数値は30%台。いかにF1のエネルギー効率が高いかが、お分かりいただけるだろう。
その他にも、不純物の除去(精密に作られたF1エンジンでは、僅かな不純物もトラブルに繋がってしまう可能性がある)、エンジン出力の向上などにも、Shellのガソリンが寄与しているという。
進化を続けるShellのF1エンジン用ガソリン。その技術は、街のガソリンスタンドで我々が買うことのできる市販車用ガソリンにも、確実にフィードバックされている。そしてその開発の第一歩が、F1チームに帯同するトラックサイドラボなのである。