シルバーストン・サーキットのパドックに、イアン・フィリップスの姿があった。フィリップスはジョーダンがF1に参戦した1990年代からコマーシャルディレクターとして活躍。その後いくつかのチームを渡り歩き、昨年はコリン・コレスがケータハムを率いたイギリスGP以降、コレスやチーム代表となったマンフレッディ・ラベットの補佐役を務めていた。

 2014年シーズンに小林可夢偉が所属していたケータハムは、後半戦に入るとチーム運営が混乱し、不可解な決定が繰り返された。いまだからこそ話せる真実があるかもしれない。そこで、久しぶりにパドックへ戻ってきたフィリップスに、いくつかの疑問をぶつけてみた。

 まず、可夢偉がアンドレ・ロッテラーにシートを奪われた昨年のベルギーGPについて。

「スパは我々にとって、とても重要なレースだった。あの時点でコンストラクターズ選手権は最下位、そのままではFOMからの分配金をほとんどもらえない状況だ。だが、ひとつ上のザウバーも入賞していなかったから、彼らを抜くにはポイント獲得が絶対条件だった。ザウバーの上か下かで、チームの予算が5000万ユーロ(約67億円)も変わってくるから必死だった。だから後半戦でポイントを獲得するためにリスクをとったんだ。可夢偉は良いドライバーだが、スパでの経験はアンドレ(ロッテラー)のほうが上というのがコレスの結論だった。そして、鈴鹿は可夢偉に託した」

 知ってのとおり、コレスの決断は功を奏さなかった。いくらロッテラーがスパを熟知しているとはいえ、わずか1戦、しかもF1初挑戦で、入賞経験のないチームでポイントを取ることができるほど甘くはない。それはF1の世界で長年仕事をしてきたコレスとフィリップスなら当然わかっていたはずだ。実際には、この時期からコレスは可夢偉側に対して金銭の要求を行っており、ロッテラーを起用することで、いくらかのスポンサーマネーを受け取っている。

 もうひとつの疑問は、可夢偉に入賞の期待を託した鈴鹿で、なぜチームメイトのマーカス・エリクソンが使用した新しいフロントウイングを与えなかったのか、ということだ。

「そのとき新しいフロントウイングは、ひとつしかなかった。優先権は1500万ユーロ(約20億円)という多額の持参金を持ち込んでいるマーカスにあった。そのことは可夢偉にも説明している」

 ベルギーGPではポイントを取るために可夢偉を下ろしたと言いながら、今度はお金が優先という矛盾。結局コレスやフィリップスによるケータハム“救済”計画は、鈴鹿のあとのロシアGPが最後となった。

「我々がケータハムの経営に乗り出すきっかけを作ったのはドクター・マルコ(レッドブルのモータースポーツアドバイザー)だった。イギリスGP直前に、マルコがコレスに『ケータハムが売られるから、買え』と電話してきたんだ。彼の狙いが何だったのかはわからないが、おそらくレッドブルのジュニアドライバーを乗せたかったんじゃないか。しかしチームに入ってみると我々が想像していたよりも、ひどい状況だということがわかった。コレスはチームに約400万ポンドを注ぎ込み、ロシアGPのあともアメリカGPに向けて可夢偉のために新しいフロントウイングと新しいサスペンションを製作していたのに……」

 結局ケータハムは管財人の管理下に入り、アメリカGPとブラジルGPを欠場。可夢偉は前述のベルギーGP欠場を余儀なくされ、チームとともにアメリカ〜ブラジルを欠場後、最終戦アブダビGPに出場。それがケータハムにとって最後のレースとなり、可夢偉は2015年のF1シートを手に入れることができなかった。

 2015年の現在、フィリップスが語った話が真実かどうかを判断するには、もう少し時間が必要だ。

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