⎯⎯スパ24時間には、日本からグッドスマイルレーシングが6年ぶりに復帰し、大勢のファンに囲まれて大人気でしたね。
サゲミュラー:待ちに待ったグッドスマイルレーシング(GSR)のカムバックだった。メルセデスAMGを挙げて、また大勢のファンが彼らを出迎えた。私個人としても本当にうれしい出来事だった。
レースではてっきり感動のゴールシーンをみんなで祝えるものだと思っていたのだが、フィニッシュの約4時間前にエンジンブロー……。本当にただただ悲しく、メルセデスAMGの幹部は茫然とモニターを見つめて固まっていた。何とかゴールをともにできないかとさまざまな可能性を迫りくる時間の中で模索してみたが、安全上の理由で諦めざるを得なかった。
誰もが気持ちの整理が付かないなか、彼らGSRが一番悲しかったはずなのに、私たちをとても気遣ってくれた。来年もふたたび彼らとスパで戦い、次こそは完走し上位へという目標を達成したいと強く願うとともに、彼らならそれを叶えられる日が来るはずだと信じている。
ちなみに、実は私はスパのレースウイークで見かけたGSRオリジナルのパーカーがとてもクールだったため、私費で購入してプライベートで着用しているんだ。

⎯⎯ところで、少し前にカモフラージュされた新しいGT3カーのような車両を公開されていましたが、その進捗状況を教えて頂けますでしょうか?
サゲミュラー:あれは“コンセプトAMG GTトラック・スポーツ”と称するコンセプトカーで、その一部の機能はGT3カーに搭載される予定だ。現在はテストを重ねている途中だが、今のところは順調に進んでおりコンセプトカーとはいえ、近い将来に新GT3になる車両が実際に走っている姿を見るのは本当にうれしい。
⎯⎯新型GT3がレースに登場するのはいつ頃になるのでしょうか?
サゲミュラー:現時点ではいつ出られるかはまだ分からないが、なるべく早くNLSニュルブルクリンク耐久シリーズに参戦できるように持っていくのが目標であり、準備が整い次第必ずSP-Xクラスで走らせるつもりだ。世界中のサーキットの難しい要素がほぼすべて詰まっているといえるノルドシュライフェ(ニュルブルクリンク北コース)で、正式デビュー前にできるだけ実戦経験を積むことは、メルセデスAMGにとって非常に重要な事項でもあることは間違いない。ベース車両となる量販車の開発の進捗具合と合わせているために、現時点でいつNLSへテスト参戦するかは明言できないが、その時が来れば必ず告知をするので楽しみに待っていてほしい。
恐らく同じような時期にトヨタ/レクサスの新型GT3カーもデビューをするというウワサを耳にしている。その前評判は高いだけに、お互い良いマシンを作り、世界中のサーキットで良きライバルとして戦える日を待ち望んでいる。
⎯⎯F1では今年、新星アンドレア・キミ・アントネッリがセンセーショナルなデビューを果たし、F1界に新しい風を吹き込みましたね。前半戦ではルーキーとは思えない順調な滑り出しをしましたが、中盤戦はミスやリタイアが続きました。ブラジルやラスベガスでは、非常に難関コースでありながら最大限のポテンシャルを発揮するなど、大きな飛躍を見せました。彼が中盤に低迷していた理由は何だったのでしょうか?
サゲミュラー:デビューイヤーを全体的に見て、キミ(・アントネッリ)は非常によく頑張っていると評価している。あの年齢でメルセデスをドライブするプレッシャーは、並大抵のことではないと思う。通常のF1ルートであれば、彼らのような若手は、まずはカスタマーチームのマシンを数シーズンドライブさせ、様子を見ながらワークスカーへ昇進させる。それに対し彼は、F1界でもっとも成功したドライバーのひとりであるルイス・ハミルトン(現フェラーリ)の後継者として私たちメルセデスへ招聘され、F1界の常識的段階をスキップしてデビューしている。そのようなドライバーは多くはいないのは誰もが知るところだ。
キミの心の内は推測でしかないが、若く経験が少ないながら外部からはもちろんのこと、自分自身の中でもとんでもないプレッシャーの中で戦っており、彼のすべてのリミットまで毎戦出し切っていることだろう。シーズン序盤では18歳の彼には失うものは何もなく、彼にとっては何もかもが新鮮で新しい世界に飛び込んで全力を出し切るのみで、その結果として良いシーズンスタートを送れていた。
しかし、レースを重ねて学んで行く内に、急にプレッシャーを感じはじめたのかもしれない。『もっと集中しなければならない。そのためにはどうすれば良いのだろうか』というように迷いが生じた可能性もある。だが、彼は苦戦が続いたなかで自分自身をうまくコントロールし、対処する方法を見付けたのかもしれない。彼の良いところは、私たちが驚くほどの高い集中力を持ち合わせていることで、それによりレースを重ねる度に非常に順調に成長していると感じている。ありとあらゆるうわさや外野からの心ないプレッシャーなど、周りのことを気にしなくなっている、気に留めないようにできるようになっているのではないかと思う。今後さらにどのようにキミが発展していくのか、私たちはとても楽しみにしている」
⎯⎯アントネッリがフォーミュラ・リージョナル・ヨーロピアン選手権でAMGのバナーをバイザーに着けて参戦していたのを覚えていますが、いつ頃から彼に注目していたのですか?
サゲミュラー:私たちの組織にはジュニアプログラムのセクションがあり、カートレースに参戦する8~9歳の年齢の子供たちを熱心に観察し、かなり早い段階から将来に輝く可能性のある“原石”の発掘をすべく、数多くいるカートキッズたちに常に目を光らせている。キミももちろんかなりの幼少時代から注目していた選手だった。正式にメルセデスのジュニアに加入してからは6~7年が経っているが、ジョージ・ラッセル(メルセデス)やルイス・ハミルトンも同様に育成ドライバーとして幼少期からF1デビューまでをプログラムの一環で見守っていた。
現在メルセデスでは、非常に速く素晴らしい才能の持ち主であるルナ・フルクサという15歳のスペイン人女性カートドライバーにとても注目をしている。
⎯⎯つい先日、サイバーセキュリティ企業『クラウドストライク』のジョージ・カーツCEOが、メルセデスF1チーム代表であるトト・ウォルフ氏が所有するチームの株式の一部を購入したことが発表され、それと同時にカーツ氏がテクノロジーアドバイザーに就任が決定しましたが、それによる社内組織の変化はあるのでしょうか?
サゲミュラー:カーツ氏はメルセデスAMG社からではなく、トト(・ウォルフ)の所有分の一部を購入したに過ぎず、チーム組織的を組み直すということはない。カーツ氏はとくにサイバーセキュリティやAI(人工知能)、未来のテクノロジーへのスペシャリストであることから、彼の専門分野を活かしたアドバイザーとしての活躍に期待している。
我々としては、カーツ氏自身が非常にサクセスフルなジェントルマンドライバーで、IMSAウェザーテック・スポーツカー選手権をはじめ、ル・マンやスパ24時間レースなど、世界中のさまざまなスポーツカーレースで活躍しているだけに、モータースポーツに強い情熱を注ぎ、理解をしている彼のような方がパートナーとなってくれたことを心から喜んでいる。クラウドストライクは氏の大好きなレースのひとつでもあるスパ24時間レースの冠スポンサーにもなっており、いまのモータースポーツ界には欠かせない素晴らしい人物であることは間違いない。

