これまで『TOYOTA GAZOO Racing』(TGR)は『3つのP』を鍛えることをコンセプトとして、「もっといいクルマづくり」を進めてきた。3つのPはPeople(ドライバーやエンジニア・メカニックの人材育成)、Pipeline(データ解析・活用術)、Product(車両開発)である。もちろん、モリゾウは常々「大の負け嫌い」を公言してレースに勝つことを求めてきたが、サーキットでの取材を続けて見てきた身としては、現場のスタッフたちは何より『TGRとしての一体感』と『3つのP』を優先しているように見えていた。

 このドライバー、エンジニア育成と量産車への還元、既存のトヨタ・ユーザーとパートナーを主軸と感じたTGRのレース活動とは別の、とにかくレースで勝つための組織として、『TOYOTA RACING』は新たに作られたと言えるのだろうか。

「勝つということは手段なので、僕は目的ではないと思うんですよ。勝てるエンジンを作ったとなれば、そのエンジンは商品価値が上がるということなので。あくまで、結果として勝ちは目標になっているのかもしれませんけど、勝てるエンジン(またはマシン)を作ることが目的。それで結果としてレースに勝てれば、みなさんが認めていただいて、そのエンジンちょうだいよって言うかもしれない」と中嶋副社長。

「効率的という言葉は聞こえはいいんですけど、あれもこれもやっていると、結局尖ったものがなくなってしまうので、まずはいったん、尖らしたものをやらしてもらって、それでいいものができたらどのように適用していくのか、という順番じゃないかなと個人的には思っています。ですから、効率性の追求ではなくて尖ったものをしっかり作るということを優先させてもらったと考えています」

「モータースポーツの世界ってやっぱりコンマ何秒競い合っているわけですし、ドライバーの腕もそうだし、メカニックの作業、クルマの持ってる能力もそうだし、削ぎ落とされた、厳選されたものだけで戦っているわけですよね。その戦っている項目がピュアに技術的にデータで現れたり、性能に評価されたりするわけですが、そこで勝てる/勝てないと、通常の大量生産のクルマの販売台数がどうやったかとはまったく違う世界だと思うんですよ」

「技術屋は自分の作ったエンジンが評価されているかどうか販売台数で言われても、正直ピンとこないんですよね。それは他の要素があって売れているわけだと思いますし。だからそこをピュアに向き合って。究極的に突き詰めようと」

 WECでTOYOTA RACINGが戦っているハイパーカークラスは今年、8メーカーが鎬を削って戦っている。そして、2022年の勝利を最後に、トヨタはル・マン24時間の勝利から3年、遠ざかっている。中嶋副社長の言葉からは参戦メーカーとして開発分野でかなりのアップデートを実現しなければ、今のWEC、ル・マン24時間での勝利は難しいということの裏返しとも聞こえるが、この点について、WECのTOYOTA RACINGチーム代表権ドライバーの小林可夢偉が説明を付け加える。

「尖らないといけないと思う。本当に。で、人が多ければ多いほど、先ほど中嶋会長が話したように、なかなかそのトンがったとこに行きにくいんですよね。『今こんなチャレンジをしたい』ということを現状では中嶋さんにすぐに聞いてもらって『それやろう』って言ってくれたらすぐできるんですよ」

「でも、今までは若干、それが複雑になっていたというのも正直、ある部分でもあるので、そういう意味では今はトンがれる体制になっているのかなと思います。簡単に言うと、もともとTOYOTA RACINGという名前はあったのですけど、今は新しいTOYOTA RACINGが生まれたばかりなので、生まれ変わって小さい規模になってターゲットが明確になっているからこそ、どんな風にも変われる、チャレンジもできるという風に思ってもらえるといいかなと思います」

「去年のル・マンのレース後、すぐにモリゾウさんのところに行ってご挨拶させていただいた時に『負けました』『すみません』って言うしかなかったんですけど、モリゾウさんが僕らの顔を見て、『本当はお前ら、もっとやりたいことあるんだろ?』と。『でも、それを制限していないか?』という風な声をかけて頂いた。今、思い出せば、その時にモリゾウさんは感じて頂いたんじゃないかなと思う。それを今回、具体的にTOYOTA RACINGという形で、僕らがもっと勝つためにチャレンジをできる体制をこうやって作っていただけたのかなと」

 隣で聞いていたTOYOTA RACINGの中嶋一貴副会長が追加する。

「TOYOTA RACINGに名前が変わること GRで『もっといいクルマづくり』の名の下にレースをしていた時と、またちょっとレースに向き合う意味合いが変わるチャンスを頂いたと思っています。やっぱりレースチームの中にもいろいろなエンジニアがいて、勝ちに注力した技術をもっと磨きたいというエンジニアたちが、よりターゲットに向かいやすくなる機会だなと思っています」

 これまで自動車メーカーがモータースポーツ活動を続けるために、『レースで勝つ』ことだけでなく、『走る実験室』としての人材育成や量産車への技術還元を名目としていたことは間違いなく、正論ではある。そして、レースファンとしては『人材育成』や『量産車たのために』とは別に、『負けたら終わり』というレースの厳しさや儚さを内包して参戦する『とにかく勝利を最優先に目指す』メーカーやチームのアプローチに共感し、エキサイトするのもまた、事実としてある。今後、これまでのTGRの流れを汲む『GAZOO Racing』(GR)に加え、『TOYOTA RACING』(TR)として新たなファンを獲得することができれば、トヨタとしても大きな恩恵となることは間違いない。

 振り返ればトヨタは昨年のジャパン・モビリティショーで『センチュリー』『レクサス』『トヨタ』『GR』『ダイハツ』と5ブランドでのプロダンクションカー(量産車)の展開を発表した。現在の1強状態で巨大化したトヨタにとって、モータースポーツ活動いおいても1ブランドではなく、ターゲットやプロセスの違いで2ブランドを展開することは自然な流れとも受け取ることはできる。

 いずれにしても、新生『TOYOTA RACING』は、トヨタの名を冠した勝利を義務付けられたブランドであり、負けることはその存在意義を揺るがし兼ねないプレッシャーを背負っての活動となる。だが、レースファンとしてはそれこそがまさにピュアなレースの醍醐味であり、魅力でもある。カラーリングを一新して発表した今年のWEC、ル・マン24時間を戦うアップデートされたマシン『TR010ハイブリッド』は、これまでとは比較にならないほど、大きく重い使命を背負って今シーズンを走ることになった。

東京オートサロン2026の初日のイベントを終え、メディアの取材に応えるトヨタ中嶋裕樹副社長/TOYOTA RACING会長
TOYOTA RACINGと名前を変えて参加するWECの活動。小林可夢偉チーム代表と中嶋一貴副会長がそのメリットを話す。

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