6月16日土曜日午後3時、第86回ル・マン24時間はローリングスタートで始まった。8号車のブエミが上々のダッシュを決めたが、7号車マイク・コンウェイがフォードシケインで前に出る。しかし5周目にはブエミが抜き返して首位を奪還するなど、トヨタの2台による激しい戦いが序盤レースの緊張感を一気に高めた。
昨年まではポルシェやアウディという直接的なライバルがいたからこそ、トヨタはチームとして結束しやすかった。しかし今年マニュファクチャラーのライバルはなく、プライベーターとのタイム差も明確であるがゆえに、逆にチーム内の内圧が高まった。
開幕戦スパでの8号車と7号車の大接戦は、F1でのチームメイトバトルを連想させた。トヨタのチーム関係者数人からの証言によれば、スパのあと、それぞれのクルマを支えるスタッフたちのライバル心は例年以上に高くなっていたようだ。
そのためか、決勝を前に村田久武チーム代表はスタッフを集め、あらためて「ワン・フォー・オール、オール・フォー・ワン」の意識を徹底した。
ただし、レーサーから野生の牙を抜きとることはしなかった。「優勝するために小細工をするのではなく、スタートから自分たちの持っているパフォーマンスをすべて出し、24時間フルアタックする」と村田は決め、オウンリスクでの自由な戦いを容認したのだ。
レースは序盤からハイペースで進み、開始1時間でプライベーターとの差は約60秒に拡大。トヨタの2台による戦いの構図が、より明確となった。
ブエミ対コンウェイのバトルは、その後ホセ‐マリア・ロペス対アロンソに移行。前を走っていた7号車ロペスをアロンソは激しく追い、トラフィックのなかでは切れ味鋭いオーバーテイクショーを披露。まるでWEC歴戦のベテランのような、堂々たる走りで周回を重ねた。「レースがうまいドライバーは、トラフィックの処理もうまいから心配していません」という一貴のアロンソ評は、まったくもって正しかったと言える。
午後8時過ぎ、トップを走る8号車のバトンはアロンソから一貴へと手渡され、その直後に7号車は可夢偉がシートに収まった。日本人ふたりによるル・マンの首位争いは非常にハイレベルで、両者ともまったくミスをすることなく速いラップタイムを刻み続けた。ただしペースは可夢偉のほうがわずかに良く、102周目アルナージュの手前で可夢偉が一貴をパス。
その後、一貴は何度か可夢偉の背後に迫ったが、結局抜き返すことができないままスティントを終えた。クルマから降りた一貴は「トラフィックにひっかかった」と、怒りの気持ちを隠さず、メディアのインタビューを珍しく拒否。それだけ気持ちが入っていたのだろう。
鮮やかな走りで首位に立ち、リードを拡げた可夢偉だが「クルマのバランスはあまり良くない」とタイムには満足していない様子だった。レース終了後、可夢偉はその理由を「レース開始後3周目くらいでデフのセッティングを変えることができなくなり、コンディション変化にクルマを合わせることが不可能になった。他の部分で補い、クルマに合わせて走るしかなかったので、かなりつらいレースになることは覚悟していました」と明かした。