ただし、「最高速だけでは勝てない」のが富士の難しさだ。最高速だけを狙うなら、前後のウイングを寝かせてロードラッグ仕様にすればいい。しかし、ダウンフォースを薄めすぎると、ブレーキングが安定しなかったり、タイヤへの負担が大きくなる。320km/hからのブレーキングとなるTGR(第1)コーナー、大きな横Gが発生するトヨペット100Rコーナーに加え、ダンロップコーナーから最終のパナソニックコーナーまでツイスティな最終セクターのことを考えると、ある程度のダウンフォースは欲しい。
どこでタイムを稼ぐべく、どのようなセッティングで臨むか、チームとドライバーはそのジレンマと戦うことになる。グリッドウォークでは、各車の前後ウイングの角度をチェックすることで、それぞれが導きだした“答え”を知ることができるだろう。
SF14になってから、富士での過去3年間の戦いを振り返ると、トヨタエンジン勢が優位に立っている。ホンダエンジン勢は昨年雨の予選でストフェル・バンドーンがポールポジションを獲得しているが、決勝では14年の第2戦レース2と第3戦で山本尚貴の5位というのが最上位。3年間、表彰台はトヨタエンジン勢が独占している。そのなかでも富士を得意としてるのがインパルとトムスだ。

開幕前の富士テストでも、突出した速さを見せたのはトムスだった。WECテストのため中嶋一貴とアンドレ・ロッテラーが欠場、その代役としてステアリングを握った平川亮とジョアオ・パオロ・デ・オリベイラが1-2タイムを記録した。平川のトップタイムは、コースレコード(1分22秒572)を大きく更新する1分21秒628。夏の開催となる第3戦富士に比べると気温が低く好条件であったとはいえ、本戦でもコースレコードの更新は必至といえそうだ。
なお、今季のSFも速さ・強さのキーポイントとなるのはタイヤであることに違いはない。昨季、各チームのドライバーとエンジニアは、新たなサプライヤーとなったヨコハマタイヤの使い方に苦労した。15年までのブリヂストンタイヤとの特性に大きな違いがあったからだ。ヨコハマタイヤで2シーズン目となる今季は昨季の経験を活かせるとはいえ、今季のタイヤはゴムは昨季と同じながら構造が異なる。
車両側のセッティングで、どこまで合わせ込めるか。テストではトムスがいち早くその正解に近づいたわけだが、気温やコンディションが変わる本戦では、また違った答えが求められるかもしれない。その“新たな正解”に辿り着くのは誰か。富士では劣勢が続くホンダエンジン勢であっても、そのチャンスは掴める。いずれにせよ、これまで以上に速く、緻密な戦いが繰り広げられのは間違いない。
また、先日のル・マン24時間で予選ポールポジションを獲得するなど速さを見せながら、トップ走行中にリタイアとなってしまった小林可夢偉、そして同じくル・マンで優勝に手が届きそうだったポルシェのアンドレ・ロッテラー、そしてトヨタの中嶋一貴と、ワールドクラスのドライバーがル・マン後に国内で走る初めての機会となる。
ル・マンでは惜しくもトラブルやアクシデントで優勝を逃した彼らだが、このスーパーフォーミュラでその鬱憤を晴らす機会になりそうだ。
