シリーズを運営する立場として難しい場面に直面することも多い上野取締役だが、昨年の最終戦にまつわるこんなエピソードを話してくれた。
「レース中、私はプロモーターの代表としてコントロールタワーにいます。昨年の最終戦が終わった後、普通なら『お疲れ様でした』と声をかけ合うところ、スタッフのみなさんが『おめでとう』と言ってくれました」
「というのも、我々が進めてきたレースフォーマットがドラマを生み、素晴らしいチャンピオン決定の瞬間だったということで、みなさんがそれを祝って言ってくれたんです。うれしくて、初めて仕事で泣きました(笑)」
「レースでドライバーがきちんと実力を発揮できて、お客様も喜んでくださった時は、プロモーター冥利に尽きますね」
さて、モータースポーツ業界での就職を夢見る人のなかには、上野取締役のようにプロモーターという立場で働きたいと考える人もいるだろう。JRPで働くには、どのような人物が求められるのだろうか。
「今JRPにいるスタッフは、過去にチームなどでモータースポーツに関わる仕事をしていて、転職してきた人がほとんどです。現在は新卒を採用していません。将来的には新卒の方を採用したいと考えていますが、現状ではレース業界で経験を積んで即戦力として入っていただきたいです」
「(今のJRPが求めているのは)それほどモータースポーツに詳しくなくても、いろいろな視点でモータースポーツを見ることができて、好奇心や探究心の旺盛な人ですかね。あと、打たれ強いところも重要です(笑)」
ちなみに上野取締役のお給料事情はというと、「取締役なんて大層な肩書きがついていますが、ごく一般的です。家族がなんとか暮らしていけるお給料はいただいています。高い給料を目指す人にはオススメしないかなあ、この業界は(笑)。でもやりがいはありますよ」とのことだ。
近年では海外からスーパーフォーミュラに参戦するドライバーも増えており、その価値が認められてきているということだろう。それでも上野取締役は、今後のスーパーフォーミュラの発展のためにも、さらにシリーズの価値を上げていくことが必要だと述べた。
「スーパーフォーミュラの価値を上げるためのひとつのきっかけとして、海外の人にこのシリーズのことを知ってもらいたいです。『グランツーリスモSPORT』(プレイステーション4用ソフト)にスーパーフォーミュラが収録されているのは、700万人とも言われているこのゲームのユーザーの大半がヨーロッパの方なので、そういった人たちにスーパーフォーミュラを知ってもらいたかったというのもあります」
最後にファンの方々にお伝えしたいこととして、上野取締役は「一度サーキットに足を運んで、生でレースを見てほしいです」と語った。
「やはり現場に来ていただいて、生の迫力に触れてほしいですね。初めてこの音やスピードを経験した人は、本当に驚きますから。フォーミュラカーはレース専用のクルマですし、速さを競うことに特化したクルマなので、モータースポーツの原点だと思います。モータースポーツのなかでも一番大切なカテゴリーではないでしょうか」
「もうひとつは、地方に行けばその先々で、地域のグルメや観光地などがありますよね。そこで旅のひとつのアイテムとしてモータースポーツを楽しんでもらうことで、楽しみ方が広がるとも思います。ぜひそうやって地域性も楽しんでいただきたいですね」
スーパーフォーミュラの開催には欠かせないプロモーターだが、JRPについて詳しく知っている方はあまり多くないかもしれない。しかしながらどのカテゴリーであれ、プロモーターというのは、こういった組織がなければレースが開催できないほどに重要な立場なのだ。
もちろんレースを開催するにはプロモーター、オーガナイザー、そしてエントラント(参加者)による協力が不可欠だが、すべてのサーキットで一貫性を持ってレースを運営できるようにJRP関係者は陰ながらレースを支えている。
