2人目に聞くドライバーは、昨年の富士ラウンドでポールポジションを獲得する活躍を見せたTEAM MUGENの野尻智紀。特にレース序盤など集団で走っているタイミングでOTSを使うか否かが、判断に悩むところだと語った。
「特にスタート直後の1周目は5~6番手から後ろになると混戦になって、そのゴチャゴチャした状態まま最終コーナーを立ち上がってくることになります。たとえば、スタート直後にOTSを使ってしまうと、最終コーナーを立ち上がったときに使えないので、一気に抜かれる可能性もあります」
「やはり一度使うと1周ちょっとは使えなくなるので、OTSを使うことへのリスクもあります。抜いた後に抜き返されることもありますし、OTSを使って抜けなかったときも苦しくなります。絶大な効果を得るときもあれば、すごくリスクになるときもある……本当に難しいですね」
「そういう数周先の展開も考慮しながら、自分が使いたいところ、あと周りのドライバーが使いたいところをトータルで瞬時に判断して、使い時を決めないといけません」
「以前のOTSと比べると頭を使わないといけないところが増えました。たとえば2台でバトルをしてOTSを使いあっている中に、3台目の(OTSを)使っていない車両がいたら、すごくラッキーですよね。鈴鹿のレースでそういう抜き方をしていたりもしましたが、そういうことが可能性としてよく起きてくると思います」
また野尻は、相手に追いつく方法のひとつとしてOTSを活用することがあるという。
「富士スピードウェイだと、使えるポイントが限られてきますが、サーキットによっては、一度に40~50秒(OTSを)使って、相手に追いついてスリップに入れるようにするとか、そういう考え方もあります。フォーミュラのレースだと接近戦は難しいので、そこまで自力では入れない部分もあります。レース中は、けっこうそういった場面もあるのですけど、なかなかテレビ映像だけでは伝わらない部分だと思います」

3人目として聞くのはKCMG在籍2年目のシーズンを迎える国本雄資。昨年は決勝でも巧みなレース展開で何度も上位進出を果たした。彼は国内トップフォーミュラで10年以上のキャリアがあるのだが、新しいOTSは数周先の展開まで先読みしなければならず、かなり神経を使うものと捉えているようだ。
「今のOTSは、基本的に1回使うと1周使えなくなります。一番難しいなと思うのは1対1のバトルのときは、相手の動きを見て使うか使わないかを考えればいいのですけど、3台連なって走っていると、一番後ろの人が有利になります。前の2台が争っているあいだに自分は使わないでおいて、次の周に使えば2台を攻略することができます。そういうところが、バトルをしている台数が増えれば増えるほど、使いどころが難しくなりますね」
「やっぱりスタート直後は前に行ける最大のチャンスなので、そこで使いたくなります。でも、そこで使ってしまうと次の周は使えなくなるので、温存していたドライバーが有利になります。ですので……本当にすごく難しいです。走行中はずっと『使うか?』『使わないか?』を考えてレースをしている感じです。『もういいや、使っちゃえ!』って勢いでやっちゃうと、次の周に一気に2台抜かれてしまったりして、痛い目を見てしまいます」
国本も、野尻と同様に相手に追いつくためにOTSを使うなど、バトル以外の場面でも活用できる方法があると考えている。その辺は、一度に使える秒数が自由に選択できるようになったのも大きいようで、ピットストップを利用したポジション逆転を狙う際も欠かせないアイテムとなっているという。
「バトル中に使うというのも手ですけど、特に残量が余っているときにはバトルじゃないときにうまく使って、前に追いつくということやっていました。最後のチャンスで追い抜く分だけを残しておいて仕掛けるということもありました。基本は追い抜くときに使っているドライバーが多いと思います」
「自分で使いたい秒数を決められるので、たとえばピットストップのタイミングでアンダーカットとかオーバーカットするときも必ず使いますね」

新システムになって、より使い方の幅が広がったOTS。これまでは相手を追い抜くときや、逆に追い抜かれるのを防御するときに使われることが多かったが、それ以外の場面でも活用できる機会が増えている。
いよいよ開幕を迎える、スーパーフォーミュラ第1戦富士スピードウェイ。レース中は、それぞれのOTSの使いどころに注目してみるのも、さらにレース観戦を楽しむ大きな要素のひとつになる。