こうして新時代の省燃費エンジンができ上がったが、レース中にガソリンを使い放題にしてしまっては意味がない。旧式な出力ターボ時代にはレース中に使用できるガソリンの総量規制やポップオフバルブによるターボ過給圧規制が行なわれたが、省燃費の理念を考えると消極的な手法である。
そこでNREを開発する際、日本では瞬間燃料流量を規制するリストリクターが併せて開発されて導入された。
瞬間燃料流量規制は、ガソリンの使用量を制限する一方、環境破壊とは無関係の空気は使い放題にして、燃費ターボの性能を伸ばす前向きな考え方に基づいている。
NREの瞬間流量規制リストリクターは、オリフィスによって一定以上のガソリンが流れないよう規制する仕組みで、性能を均一化するため用いられる吸気リストリクターに似た原理となっている。
ただし気体と異なり、液体をオリフィスで絞ると、液体には圧縮性がないので突然キャビテーション=臨界という状態に達して一気に蒸発し気体になるという現象が起きる。
こうなるとエンジンが燃焼するために要求する燃料流量をまかなえなくなってエンジンが失火し、高速走行中に突然失速して追突など危険な状態を招きかねないという懸念があった。
そこでF1グランプリでは物理的に流量を規制せず、超音波を用いた電子的な監視による流量規制が導入されたが、日本の技術陣はオリフィスと電子制御を組み合わせ、安定して安全な瞬間燃料流量リストリクターを作り上げた。
構造が単純で管理が容易なうえ、ハンデ制度による絶対性能制限にも使いやすい日本の機械式瞬間燃料流量リストリクターもまた、レースの本場ヨーロッパに先んじた驚愕メカのひとつだと言えるだろう。