このように、VWはスモール/コンパクトSUV市場では圧倒的な最後発でありながら、似たようなセグメントに1年半で2機種を連続投入する力ワザを見せた。慎重派ではあるが、やると決めたら一気に攻めるのもVWの特徴である。
Tロックとの棲み分けのためか、Tクロスは小さいだけでなく、中身もあえて「お手軽クロスオーバー」というべきものに割り切っている。
エンジンも1.0リッター3気筒ターボや1.6リッターディーゼルなどの控えめなものが基本で、駆動方式は全市場でFFのみ。4WDの用意はない。
Tクロスは細かい仕立てもお手軽感が強い。現在の日本仕様は1.0リッターターボのみで、まだ上陸間もないこともあってグレード構成も簡素。比較的装備が充実した『TSI 1st』が基準で、そこに安全装備やパドルシフト、上級シート、ルーフレールなどを追加した『TSI 1stプラス』がある。
■入門VWユーザーを取り込むための、秘策が盛り沢山
今回の取材車は上級の『TSI 1stプラス』で、本体価格は335万9000円。額面では同じエンジンを積むポロの上級モデル(TSIハイライン)より約37万円高い。
ただ、このクルマにはポロTSIハイラインではオプションとなっていレーンキープアシストや駐車支援システム、斜め後方警告などの先進安全装備やナビが標準装備だし、後席スライド機構も付く。実質的にはTクロスのほうが割安なくらいだ。
ボディサイズや室内空間、タイヤサイズが大きいSUVはいろんな意味で付加価値が高く、よって同クラスのハッチバックより高価に設定されるケースが多い。
その意味では、Tクロスは珍しいのだが、それだけ、満を持して登場させたスモールSUVへの、彼らの強い期待がうかがえる。
もっとも、そのぶんポロより安普請だったり、割り切ったところが、Tクロスに散見されるのも事実。とくにインテリア調度品はすべて硬い樹脂部品で、ポロのようなソフトパッドは使われていないし、その樹脂部品もポロのそれより明確に安っぽい。
地上高はポロより40mmほど拡大している。絶対的に乗り心地が悪いというほどではないが、背高グルマらしいコツコツ感は明確にある。ポロより重心が上がったぶん、サスペンション部品のグレードも上げて……みたいな感触は薄い。
しかし、これは悪いことではないと思う。室内空間や視界性能はポロより明らかに良好だし、硬めの乗り心地からクルマ動きは必然的にキビキビしたものになっており、これはこれで「若々しくてスポーティ」と表現することもできなくはない。
Tクロスは今後、ポロより多くの入門VWユーザーを取り込むのが役目だから、旧来的な意味での質感や乗り心地を狙いすぎない仕立ても理解できる。



■フォルクスワーゲン Tクロス TSI 1stプラス 諸元
| 車体 | |
|---|---|
| 全長×全幅×全高 | 4115mm×1760mm×1580mm |
| ホイールベース | 2550mm |
| 車両重量 | 1270kg |
| 乗車定員 | 5名 |
| 駆動方式 | FF |
| トランスミッション | 7速DSG |
| タイヤサイズ | 215/45R 18 |
| エンジン種類 | 直列3気筒DOHCターボ |
| 総排気量 | 999cc |
| 最高出力 | 85kW(116ps)/5000ー5500rpm |
| 最大トルク | 200Nm(20.4kgm)/2000ー3500rpm |
| 使用燃料/タンク容量 | プレミアム/40L |
| 車両本体価格 | 335万9000円 |
■Profile 佐野弘宗 Hiromune Sano
1968年生まれ。モータージャーナリストとして多数の雑誌、Webに寄稿。国産の新型車の取材現場には必ず?見かける貪欲なレポーター。大のテレビ好きで、女性アイドルとお笑い番組がお気に入り
