10日、日曜日。前日の雨で路面はまだ完全にドライにはなっていないが、走行ラインは少し乾き始めていた。8時50分に始まった公式予選A組では第2戦のウイナー、大森和也が1分48秒660(平均118.824km/h)と参加者唯一の48秒台をマークし、トップに立った。9時15分から15分間で行われたB組予選は1分49秒121(平均118.33km/h)の咲川めりがトップ。その結果、A組大森のポールポジションが確定した。無良は予選の15分間でトータル7ラップし、2周目にマークした1分50秒437(平均116.912km)が最速タイム。

 予選を終えた無良は、「予想以上にリヤ(タイヤ)の内圧が上がってしまって、1回ピットに入って(空気圧を)下げようと思ったけど(予選の時間が短く)間に合わないから、そのまま走り続けた」「(明らかにペースが遅い)前のクルマになかなか譲ってもらえなくて、そのおかげでだいぶロスしてしまった」とタイヤの内圧の問題とトラフィックに引っ掛かりクリアラップが取れなかったことを悔やんだ。前週の練習走行でマークした自己ベストの1分50秒1にはわずかに届かなかったが、ともあれB組10番手、総合20番手で決勝進出を果たした。

予選のベストタイムは2周目にマーク。「リヤの内圧が予想以上に上がってしまった」と無良

 今回は予選と決勝を1日で行うワンデー開催だが、予選終了の9時半から、決勝スタートの15時05分までの待ち時間が長い。他のカテゴリーのエクゾーストノートを聞きながら、手持ち無沙汰な時間と適度な緊張感を交互に繰り返し、ようやく決戦の時がやってきた。参加54台中、A組上位22台とB組上位23台の合計45台がスターティンググリッドに並びレースがスタート。

20番グリッドの無良。この後ろにはさらに15台のヤリスがスタートを待つ

「2速に入らなかった」と痛恨のシフトミスで数台に先行されてしまった無良は、25番手でオープニングラップのコントロールラインを通過。そこから落ち着きを取り戻し、激しいテールtoノーズ、サイド・バイ・サイドの攻防のなか、1台、また1台とオーバーテイクを決めていく。「四大陸の他、ここSUGOも制するのか?」「無良選手のジャンプで4台を跳び越す」と実況アナの気の利いたコメントも場内に響いた。そして10周のレースはポールポジションからスタートの大森が優勝、無良はヤリスカップ初戦で20位完走を果たした。

ミラーが擦れるほどの激しいサイド・バイ・サイドも経験

 パルクフェルメにクルマを停めた無良がヘルメットを取ると、そこには満足感に満ちた表情があった。86/BRZレースでは経験できなかった中団グループでの争いに、初めて本物のバトルを経験した喜びがあった。レースがあと数周続いていたら、もっともっと多くのクルマを追い抜けていたはずだ。

ワクドキ72号車はヘアピンで切れ味鋭く前車を鮮やかにパス
レースで初めて本格的なドッグファイトを経験
レース終了後、パルクフェルメから戻ってくる無良の表情は満足感に満ちていた

「欲を言えば木曜、金曜日にもっと走れればよかったけど、先週みっちり走れていたのがよかった」とレース直後の無良。そして、「今回ようやくレースのなかで競って走るというのが体感できた。ものすごくいい経験になった」「前にも後ろにもいっぱいいて近すぎて怖かったけど……やっぱり、ひとりで走っているのと隣がいるといないとではぜんぜんラインが違うし、ああヤバイ、もうちょっと避けなきゃヤバイかな?っていろいろ考えながら走ってました」とヤリスカップの初戦を振り返った。

 そして、今回ずっと無良のサポートをしてくれた中山雄一選手は、「久しぶりのレースでも周りに飲み込まれることなく、自分の芯がある自信を持った走りができていた。練習中にトラブルが出てしまったことと、昨日(土曜日)雨が降ってしまったことで、今年初レースということではだいぶ不利だったと思うけれど、もっともっと本来の実力は上にあってシングル(ひと桁順位)を走れる力はあると思う」と無良のレース内容を評価。「スタートが残念でしたね」と尋ねると、「それは経験だし、その後ちゃんと巻き返してこれた。もしシングルスタートだったら前を見ながら(順位変動もないまま)そこで終わってたと思うけど、ああやってパッシングもできて楽しいレースになったんじゃないかと思います」と、さすが一流ドライバーならではの見解。そして、「このヤリスカップを真剣に追いかけたら、2年ぐらいあればシリーズチャンピオン争いができるんじゃないかと思うので、ぜひそういうところも見てみたいなと思います」と嬉しいコメントをいただいた。

 事実、無良のレース中のベストラップは決勝出走全45台中11番目のタイムをマークしていた。次のレース参戦はまだ決まっていないが、今回の収穫は大きかった。そして、かつて世界の舞台で戦った男の闘争本能に再び火が灯ったことは間違いない。

 今後も引き続き、レーシングドライバー無良崇人の活動を追いかけていく。

中山は「笑顔で終われることがいちばん大切」と教えてくれた
“レーシングドライバー無良”の仕事場
今回、無良のメカニックを担当したGR Garageつくばの池戸誉さん。決勝を無事に終えることができ、安堵の表情を浮かべた
力強い味方となってくれた中山に“スケーター無良”を見たことがあるかと尋ねたところ、残念ながらタイミングが合わず、『浅田真央サンクスツアー』は代わりにお母様が鑑賞。「真央ちゃんと無良くんは別格だった」とのこと
次戦はまだ決まっていないが、無良はまたサーキットに帰ってくる
会場まで足を運んでくれた「提督さん」たちの声援は無良にもしっかり届いていた

■無良崇人(むら たかひと)
1991年2月11日、千葉県生まれ、30歳。2014年、四大陸選手権優勝。全日本フィギュアスケート選手権、13年連続出場(3位5回)。日本代表として世界選手権に3回出場。ISU GPシリーズ、12年エリック・ボンパール杯優勝。14年スケートカナダ優勝。世界ランキング最高順位6位。18年3月、競技生活を引退しプロフィギュアスケーターに転身。現在はアイスショーやフィギュアスケート解説者として活躍中。艦これ(艦隊これくしょん)のイベントでは、“無良提督”の愛称で絶大な人気を誇る。

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