抜くことも抜かれることもなく、フェラーリは今年いちばん“地味”なレースを続けた。5位ベッテルはラインが何度もぶれ、コース幅いっぱいを使って車速をキープする、きわどいドライビング。修正操作が繰り返され、タイヤに厳しくならざるをえない。だからベッテルが中盤に「このタイヤでステイして最後のスティントを短くしよう」と考えたのも理解できる。データによる予測以上に、レース中の性能劣化が進んだ。
ライコネンのカーバランスはベッテルより少しだけ安定しているように見てとれた。それでもコーナー入口で曲がらず、出口で滑るのをなだめるドライビング。タイムペースは上がらず、燃費をセーブする必要もあった。これでは手も足も出せない。3番目のマシンに下落した事実を受け入れねばならず、その苛立ちが無線会話のトーンに表れた。
とてもナーバスな挙動の“暴れ馬”に変わってしまった夏のSF16-H。ひとつ気づくのはターボやギヤボックスの信頼性低下が続き、その対策に追われたことだ。応急手当として各部を強化、それにともない重量が増加してもトラブル防止が急務。マシンの前後重量バランスなどが変動し、コーナリング・フォームが唐突に乱れる場面がとても多い。
ベッテルもライコネンも不満はコメントしても、あからさまなチーム批判は慎み、いまはじっと耐えている。メルセデスが母国で今季12戦11勝を決め(2014年パワーユニットになってから50戦43勝)、レッドブルは約1年ぶりにダブル表彰台。3番手へと転落したフェラーリは信頼性回復、トラブル防止に追われ、正常進化アップデートまで手が回らなかった。7月の過密4戦スケジュールは、どのチームより辛かっただろう。アリバベーネ代表に心労の影がうかがえる。