しかしレース当日、グリッド上のガスリーは、場違いなほど物静かな雰囲気を漂わせていた。エンジニアとの最後の打ち合わせも、話しかけてきたフランツ・トスト代表に答える様子にも、緊張とか興奮はいっさい感じ取れなかった。そしてレースでは4位チェッカーを受けるわけだが、何より安定したレースペースが光った。速さに優ったマグヌッセンに二度も抜かれかかるが、その都度冷静に抜き返し、その後はじりじりと引き離し、最後は10秒以上の差を付けた。

 レース直後のTV囲みでは、各国クルーによるガスリーへのインタビューが延々と続いた。そして彼らに答えるガスリーは、もちろん笑顔は絶やさなかったものの、予選直後の手放しの喜びようとはまったく違っていた。何というか、すでにその先の目標を見据えているかのような、そんな余裕が感じられたのである。

 長年F1を取材していると、ごくたまにこんなドライバーに出会う。成長が表に現れやすいタイプというのか。ガスリーがこれから一流ドライバーへと育って行くのかどうか、それはまだわからない。しかしトロロッソ・ホンダが好調を維持すれば、今後セッションごと、レースごとに、どんどん目つき、顔つきが変わって行くのはまちがいないだろう。サナギが蝶へと変身して行くさまを、今年は間近でじっくり見られそうである。

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