更新日: 2018.06.14 12:37
ロリー・バーンが語るトールマンTG184。アイルトン・セナ、モナコGPデビューマシンの真実
バーンは自身がトールマンで初めて手がけたマシン、TG181についても解説してくれた。
「ウイングカーの時代にF1参戦を決めて、最初に設計したのがTG181だ。80年のヨーロッパF2チャンピオンを獲得した我々のF2マシン、TG280がベースになっていた。ブライアン・ハートが開発したハート415Tエンジンを搭載したマシンだった」
「しかし当時の我々はもちろん、ハートや一緒にF1に関わり始めたピレリタイヤの開発もまだ手探り状態で、他チームとの差はまったく把握できていなかった。したがって、我々はミスを犯しながら多くのことを学んできた。F1新入生が最初から上級生と対等に戦えるとは考えていなかったけれど、本音を言えば予想以上に難しかったのは事実だ」
バーンは、当時のトールマンがF1挑戦を少し甘く見ていたことを明かす。
「最初に苦しんだのは、オーバーヒート。ターボエンジンの経験がなかったため、ハートもベンチテストでの結果をメインに熱量を想定していたが、この数値が現実的ではなかったことが大きな問題だった。なおかつ、タービンから発生する熱が尋常ではないことも、実際に走ってみてから初めて判明したんだ」
最初に直面した大きな課題は、ターボエンジンのあらゆる部分においてのオーバーヒート対策。近年を振り返ると、2014年に新パワーユニットが投入された時も、初期段階で各メーカーがオーバーヒートの問題に対処していたことを思い出す。もちろん、80年代のそれとはまったく違う種類の問題なのだが、どこか共通点を感じてしまう。
「TG181はエンジンマウントが巨大なツインチューブモノコック型をしていたが、それが大きな容積を取っていて、冷却系の大型化を阻んでいた。少しでも冷却するために、ターボユニットをエンジンのカムカバーの上に搭載して空気流にさらして、さらに冷やそうと試みたがそれでも絶対的に足りず、散々な目に遭った。でも、この反省がTG183に活かされた」
確かにTG183は、まったく違うマシンに生まれ変わって登場した。F2ベースのアルミモノコックは、当時先進のカーボン、アルミハニカム、ケブラーによるコンポジットに変更されている。トールマンはマクラーレン、ロータスに次いで、3番目にコンポジットモノコックを採用したチームとなった。
「カーボンコンポジットはアルミモノコックと違って高いねじれ剛性を持ち、巨大なパワーと大きなトルクにも耐えられるし、複雑な形状の成形も可能だ。軽く強くコンパクトに作れ、サイドポンツーン内の空間が広がることで補機類の搭載容積も増える」
「その結果、インタークーラーやラジエター類などの熱交換の性能を大きく向上させ、ハート・エンジンの性能アップにもつながった」
のちにバーンはコンポジットの車体設計の第一人者と呼ばれるようになるが、TG183はその初挑戦マシンだったのだ。冷却、そして高馬力・高トルクのターボエンジンへの必然性から生まれたカーボンコンポジットモノコックだが、そこには冷却に関するサイドポンツーン内のフローダイナミクス、インターナルエアロも重要な要素であった。
「エアロダイナミクスの重要性はF2時代から強く感じていた。幸運なことに、私は趣味で昔から模型グライダーの設計をやっていて南アフリカの競技でチャンピオンも獲得しているが、これがレーシングマシンのエアロダイナミクスを考えるうえで大きく役立った」と、自身の趣味とF1マシンのデザインとのつながりを説明する。これがバーン・エアロの第一歩となったわけだ。
「フラットボトム化したTG183Bでは、ハート・ターボの大パワーをピレリタイヤを介していかに路面に伝えるのかを徹底して考えた。それがフロントウイングを止めて、巨大なスポーツカーノーズを選んだ理由だ。いわゆるベンチュリーフロアだね。
このウイングでフロントに巨大なダウンフォースを発生させており、その効果は絶大であったが、リヤのダウンフォースもうまくバランスさせなければならず、巨大なミッドウイングと通常のリヤウイングの2本立てを考案した。
実際、高速ではミッドウイング、中低速コーナーではリヤウイングでダウンフォースを稼いでおり、このアイデアは成功したのだが、2枚のウイングのドラッグは隠しようがなく、大きな問題にもなっていた」
特徴的なTG183Bのエアロダイナミクスはこうして生まれたわけだ。同車の外形はF1史上、この1台を除いて見つけることができない独特なスタイルだが、「TG183Bには多くの短所があり、それを解決したのがTG184だ」とバーンは語る。
「TG183Bの問題点は、大きなダウンフォースを得たものの、フロントはグラウンドエフェクトが強すぎ、ピッチングによってダウンフォースが変化しやすかったことだ。ドライビングがとても難しくなっていた」
「また、リヤのダウンフォースもウイングが受け持っていたためにドラッグが大きく、スピードや燃費に悪影響を及ぼした。そして、フラットボトムとディフューザーをショートフロアで設定したことも、大きな問題のひとつだった」
この反省を活かし、TG184ではロングフロアディフューザーを採用したのだという。
「フロアディフューザーからのダウンフォースを増加させることに成功し、その効率向上は著しかった。それにサイドポンツーンの大型化は、パワーアップしたハート・ターボの要求する熱交換性能を満足させるインタークーラーの大型化と冷却能力の向上につながったんだ」
「フロントのピッチングセンシティビティ(過敏な上下動反応)は、ベンチュリーフロアノーズを大きくシングルウイング化して対処した。これは一見、巨大なフロントウイングだが、ベンチュリー効果でのグラウンドエフェクトを狙ったものだ」
「実際、エンドプレートに施したアジャスタブル機能は単にウイングの角度用ではなく、グラウンドエフェクトのためのスカートの役割を持たせていたのだ。このウイングの搭載でダウンフォース自体は若干減少したが、ポーパシング等の神経質な反応は緩和された。セナはこのマシンに乗った途端、1秒以上も速く走ったからね」
「それはミシュランタイヤの性能だけではなく、TG184の素性も良かった証拠だ。ただ、ミシュランが我々に供給できたタイヤは、マクラーレンに供給している開発タイヤではなく、コントロールタイヤのみだった。両スペックの差は、0.6秒くらいに値する大きなものだったんだ」