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F1 ニュース

投稿日: 2018.06.14 12:33
更新日: 2018.06.14 12:37

ロリー・バーンが語るトールマンTG184。アイルトン・セナ、モナコGPデビューマシンの真実

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F1 | ロリー・バーンが語るトールマンTG184。アイルトン・セナ、モナコGPデビューマシンの真実

 なぜ、ミシュランはトールマンにコントロールタイヤしか供給しなかったのだろうか。

「もちろん、当時トップチームであったマクラーレンが我々への開発タイヤの供給を拒んだからだ。ミシュランは供給してくれようとしていたんだけどね。TG184とセナは、そのコントロールタイヤでマクラーレンを追い回してしまったのだから」と、ロリーは当時を思い出しながら笑みを浮かべる。では、優勝目前までいった雨のモナコGPは?

「ミシュランのウエットタイヤにはコントロールタイヤの設定がなく、他の供給チームと同じタイヤしかなかったんだ。当初、マクラーレンはこのタイヤを我々に供給することを強く拒んだのだが、最後の最後でミシュランが我々に他チームと同じウエットタイヤを供給してくれた」

「我々にはセットアップの時間がほとんど残されていなかったが、それでもセナがレース半ばでマクラーレンのアラン・プロストをかわしてトップに躍り出るところだったんだ。赤旗さえなければね……」

 マクラーレンの政治的保守性をやんわりと批判したバーンだが、ハートに関しては賞賛を惜しまなかった。

「彼らは良い仕事をしたと思う。81年のデビュー当時からパワーはあったが、耐久・信頼性をなかなか確保できなかった。だが、ブライアンは開発を頑張り、F1史に残るモノブロック(シリンダーヘッドとシリンダーブロックが一体化しているエンジン)を作り上げた」

「また、現在では市販車でも当たり前の電子制御点火をF1で初めて採用していたし、開発を進めるごとに確実に性能を上げていた。特に、83年後半にホルセット製ターボユニットを開発してからの性能向上は目覚ましかった」

「それまでは既製のターボユニットだったが、ホルセットがハート用オリジナルを製作し、大成功を収めたのだ。プライベートエンジンが当時のワークスと渡り合っていたことを考えると、ブライアンの才能には頭が下がる」

 バーンの話を聞く限り、ハート・ターボは世の中で言われているように非力ではなかったのだ。翌年の契約問題に関するペナルティで、イタリアGPに参戦できなかったセナの代役として出走したステファン・ヨハンソンが、TG184初ドライブながら4位入賞を記録したことからも、マシンに速さがあったことは明らかだろう。

 84年限りで袂を分かつことになるセナだが、バーンは「間違いなくアイルトンは、才能に溢れた素晴らしいドライバーだった」と振り返る。

「彼はトールマンに加入して最初のシルバーストン・テストでTG183Bをドライブし、それまでのトールマン・ドライバーのベストタイムをいきなり更新してしまったのだ。あれほどドライビングが難しかったマシンなのに、その速さに驚かされた。もちろん、その後に彼の残した成績を考えると当たり前のことなんだけどね」

「ただ、彼がその才能を発揮できたのは、TG184とハート・ターボの貢献があってこそのものだと信じている。アイルトンは翌年ロータスへ移籍したが、TG184はそのロータスのマシンとも互角に戦えるマシンになっていたはずだ」

ロングフロアディフューザーを採用したエアロコンセプト

「TG184で生み出したロングフロアディフューザーによるエアロコンセプトは、その後の私のコンセプトを支える核となってきたものだよ」

 バーンはTG184の出来に胸を張り、自身のデザイン史の中で重要な出発点となったマシンについて、懐かしそうに語った。

 それでは、F1史上に残るカリスマデザイナーのバーンにライバルはいるのだろうか。普通に考えると、それはエイドリアン・ニューウェイしかいないのだが、バーンは「エイドリアンをライバルとして考えたことはない。F1史上最高のエンジニアであり、私は彼をすごく尊敬している」

「エイドリアンは巷で言われているような空力だけのエンジニアではなく、エンジニアリングすべてに造詣が深い。エンジニアとして、人格者として憧れる存在だよ」と、驚くべき意見を聞かせてくれた。

 面白いことにこれは、ニューウェイのバーンに対する考えとよく似ているのだ。F1デザイン史を二分してきたカリスマデザイナーはお互いの才能を認め、尊重してきたのだろう。

 現代社会では滅多に見られないライバル同士の尊敬感……彼らの生み出してきたマシン群がF1で常に高度なチャンピオン争いを繰り広げてきたのは、このような感情が影響していると考えるのは筆者だけだろうか。

 トールマンTG184を介して知ったロリー・バーンの出発点、そしてカリスマの系譜──やはりF1は奥が深い。

ニューウェイを「ライバルとして考えたことはない」と語るバーン

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