じつはこのとき、ガスリーのグリッドにゲストとして駆けつけていたのが、007の第6代目ジェームズ・ボンド役を務めているダニエル・クレイグだった。

イギリスGPで、アストンマーティン・レッドブル・レーシング(ホンダ製パワーユニット=PU搭載)が、映画「007」シリーズと提携して、マシンに同シリーズの装いにブランディングされたマシンで出走しようとしていたからだ。
その現役ジェームズ・ボンドが見守る中、レッドブルのメカニックたちは、映画「007」にも負けない早業で問題を解決していくのである。
ガレージからメカニックがスペアの翼端板を持って、スタートラインに到着したのは13時58分。

幸いレッドブルの2台のグリッドは4番手と5番手だったから、ここからすぐに到着したが、もし最後尾にいたら、それだけで数十秒はロスしていた。

イギリスGPのフォーメーションラップのスタートは14時10分。レギュレーションでその3分前までにタイヤの装着を完了しなければならず、1分前にエンジン始動。そして15秒前までにチームスタッフは全員グリッドから退去完了しなければならない。1秒を争うメカニックたちにとって、イギリスGPの4番手と5番手は不幸中の幸いだった。
ここからレッドブルのメカニックは信じられない速さで2台のマシンのリヤウイングの翼端板を交換。

驚いたのはそれどころではない。その一部市場を間近で見ていたフェルスタッペンが動揺する素振りをまったく見せていなかったこと。

さらに感心したのは、チーム代表のホーナーとヘルムート・マルコ(レッドブルのモータースポーツアドバイザー)は、メカニックたちの仕事を邪魔しないよう、モナハンから事情の説明を聞く以外は、いっさい口出ししなかったことだ。

メカニックによる交換作業は、グリッドからチーム関係者以外が退去させられた後も続いた。同じ時間のフェラーリのグリッドを見れば、いかにレッドブルのグリッドに多くのメカニックが集まって、ギリギリまで作業していたかがわかる)。最終的に完了したのは、メカニックがマシンから離れる規定時間のわずか60秒前だった。
レッドブルのメカニックたちによる早業は、これで終わりではなかった。レースでのピットストップ作業でも魅せた。フェルスタッペンをシャルル・ルクレール(フェラーリ)の前でピットアウトさせると同時に、ガスリーのタイヤ交換は静止時間わずか1.91秒で完了。これはウイリアムズが持っていた世界最速記録の1.92秒を0.01秒上回る世界最速ピットストップとなった。


