ハンガリーGPで勝利を収めたハッキネンは、ベルギーGPを前に、選手権でシューマッハーを2ポイントリード、タイトル争いは白熱していた。

 ハッキネンはポールポジションを獲得。決勝はウエットコンディションのためにセーフティカー先導のもとでのスタートとなり、ハッキネンはその後も順調にレースをコントロールし、ドライタイヤに履き替える前の時点では10秒のギャップを築いていた。一方のシューマッハーは4番手から2番手に順位を上げ、ハッキネンにプレッシャーをかけ始めた。

2000年F1ベルギーGP ミハエル・シューマッハー(フェラーリ)とミカ・ハッキネン(マクラーレン)
2000年F1ベルギーGP ミハエル・シューマッハー(フェラーリ)とミカ・ハッキネン(マクラーレン)

 ふたりのギャップが5秒以内に縮まった時、ハッキネンはスピンを喫し、ライバルにリードを譲り渡す。シューマッハーは10秒以上先に逃げていったが、ハッキネンはフェラーリより10km/h勝ったトップスピードのアドバンテージを生かし、首位を取り戻すべく、ギャップを縮めていった。

 この時のハッキネンは、リスクを冒す必要はなかった。スピンをしてしまったものの、幸いレースを続行することができたのだし、シューマッハーに続く2位でフィニッシュできれば、チャンピオンシップではライバルの2ポイント後ろに下がるだけで済む。ところが、そういう計算はハッキネンの頭には一切なかったようだ。残り周回数が少なくなりつつあるなか、ハッキネンは必死にプッシュし、シューマッハーを追い続けた。

 44周のレースの40周目、ハッキネンはケメルストレートでフェラーリに仕掛ける。しかし最後の瞬間にシューマッハーが強力なディフェンスを見せ、オーバーテイクは失敗に終わった。ハッキネンはそこで諦めるどころか、かえって、勝利への執念を燃え立たせ、シューマッハーに挑みかかった。

 1周後、同じシチュエーションまで持ち込んだ時、ふたりの目の前にバックマーカーのリカルド・ゾンタがいた。まずはシューマッハーがBARのトウ(スリップストリーム)を利用、続いてハッキネンもスリップに入り、コース中央を走るゾンタを、ふたりが左右に分かれて追い抜いた。

 レーシングラインをキープしていたシューマッハーは、ハッキネンを振り切ったものと考えていた。そのためレ・コームへのブレーキングでマクラーレンがイン側に飛び込んできたことに驚いた。シューマッハーはリードを手放さざるを得ず、ディフェンディングチャンピオンのハッキネンは、レース残り3周のところで再びトップに立ち、劇的な勝利を収めた。

2000年F1ベルギーGP ミカ・ハッキネン(マクラーレン)とミハエル・シューマッハー(フェラーリ)
2000年F1ベルギーGP ミカ・ハッキネン(マクラーレン)とミハエル・シューマッハー(フェラーリ)

 ハッキネンは、あの勇敢なオーバーテイクで、シューマッハーとコース上で互角に渡り合える能力があることを証明した。それに加えて、思いどおりにいかない状況のなかで感情をコントロールしながら勝利を狙えるドライバーであることも示したといえるだろう。

 この勝利でハッキネンは、残り4戦の時点でシューマッハーを6点リードすることとなったが、最終的にタイトルをつかむことはできなかった。それでも、ハッキネンのあの目の覚めるようなオーバーテイクは、F1のなかでも最高レベルのドライバーというステータスを、より確固たるものにしたのではないだろうか。

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