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F1 ニュース

投稿日: 2020.10.06 11:17
更新日: 2020.10.06 11:41

【中野信治のF1分析第10戦】見せ場を作ったライコネンのブロックとトップドライバーのクリエイティビティ

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F1 | 【中野信治のF1分析第10戦】見せ場を作ったライコネンのブロックとトップドライバーのクリエイティビティ

 テクニック云々以前に、やっぱり肝が据わっているドライバーはブロックがうまいというのが僕の持論です(笑)。今回のライコネンもバトルの最後の最後は抵抗を諦めて抜かれてしまいましたが、そこに至るまではどんなプレッシャーを掛けられてもミスはしませんでした。

 レース中のバトルで後ろのドライバーに抜かれてしまう状況は、『前を走るドライバーがミスをしてしまう』『精神的に弱くなって譲ってしまう』、そして『後ろのマシンが速すぎてどうにもできずに抜かれてしまう』という3つがあります。

 だいたいの場合はドライバーの完全なミス、そしてちょとしたミスを犯してしまい、そこを突かれて抜かれてしまいます。これは本当に乗っている人間にしかわからないのですが、ドライバーも人間なので、後ろからものすごいプレッシャーを掛けられるとミスを起こしやすくなってしまうんですよね。

 速いドライバーが後ろから来たときのプレッシャーは半端なく大きいですし、その状況のなかで『ここはインを抑える』、『ここではアウトを抑えて次のコーナーで抜かれないようにスピードをコントロールをして、立ち上がりのトラクションをうまく掛けていく』というような正しい状況判断といいますか、駆け引きのなかで冷静にいられるドライバーは、よっぽど肝が据わっていないとできないことです。

 F1ドライバーレベルになるとバトルでの技というのはみんな持っているので、その技をギリギリの状況下できちんと使えるか、出し切れるかというのが難しさになります。当然、F1ドライバーは経験豊富なので、相手のドライバーの動きもある程度は読むことができます。

 小技としては、後ろのマシンが前のマシンのミラーに『映り込むテクニック』というのがあります。後ろのドライバーが、前のドライバーと単に同じラインを通っているとプレッシャーを感じず、『後ろは仕掛けてこないな』と思ってしまいます。なので常に『ここでは入って来るかもしれない』と思わせることが大事になります。

 後ろのドライバーは、どうしたら前のドライバーがプレッシャーを感じるかを常に考えています。ミラーの死角に入ってみたり右のミラーに映ったり、左側に見せたり、そのあたりの駆け引きを押したり引いたりしながら相手にプレッシャーを掛けていきます。圧倒的なスピード差があれば普通に攻めればいいのですが、膠着状態のときは精神戦になるので、そういう技を繰り出していかないといけません。外から見ると本当に分かりづらいんですけれどね。

 でもプレッシャーがかかると、その読めている部分が微妙に読めなくなったり見えなくなってミスをしてしまったり、バックミラーを見すぎてブレーキングポイントを見誤ったりタイヤカスにのってしまうなど、そういうミスが起こります。そういったことを踏まえて、モータースポーツは結局のところメンタルの勝負なのだと思います。一番難しい状況のなかで、いかに一番冷静でいられるかというのが、ドライバーの本質的な強さを見るには一番分かりやすいのかなと思います。

 ライコネンも過去にあれだけ素晴らしい成績を残してきたドライバーですし、アイスマンと言われてるとおり、冷静に物事を対処できるメンタルの強さを持っているからこそ長くレースを続けられているのではないかと思います。今回はその光るものが見えた戦いっぷりでした。

 僕が現役の頃も、F1ドライバーはみんなブロックが上手でした。お互いの特徴をだいたい知り尽くしていて、みんながうまいなかでオーバーテイクをしにいくので、結局、当たってしまうことが多いですよね(笑)。

 オーバーテイクの技術に関しては、当時僕が乗っていたころはやはりミハエル・シューマッハーがうまかったですね。『ここでくるか!?』『まさか、ここではこないよな?』というところでオーバーテイクを仕掛けてくる。『しつこさ』とかもありますが、なによりもすごいのは『そこで入ってくるのか』というオーバーテイクのクリエイティビティです。

 オーバーテイクというのは創造力というか、クリエイティブな作業だと思うので、『ここでこうして、こうだから抜いていく』という当たり前に頭のなかで考えているバイアスを外さないと、相手が『えっ!?』というようなオーバーテイクはできないんですよね。でも、そういうのができるドライバーというのがたまにいます。

 ミハエル・シューマッハーは意外性というか、どちらかと言えば正統派です。ですが、相手が怯んでしまうようなミラーの映り方をするんですよ。ミラーに映ったシューマッハーのマシンからは、オーラというか炎が出ていました(笑)。なので、『これは譲らないとヤバいな』と思ってしまうわけです。そういう『どけどけオーラ』キャラクターを作ることも大事ですね。そういった圧倒的なイメージが、シューマッハーが現役で一番強かったころにはありました。

 今のドライバーではハミルトンにマックス・フェルスタッッペン(レッドブル・ホンダ)に加えてダニエル・リカルド(ルノー)、そして乱暴で少しミスも多いけれどアレクサンダー・アルボン(レッドブル・ホンダ)もうまいと思います。アルボンも『えっ』というところで入っていけるタイプのドライバーですよね。ちょっと安定感に欠けているけれど、ああいうオーバーテイクの仕方はすごいなと思います。接触もしますが、結構仕掛けられるドライバーだと思いますね。

 最後に、次戦となる第11戦アイフェルGPですが、ニュルブルクリンクのコースイメージはとてもシンプルで、オーバーテイクポイントはだいたい1コーナーです。ニュルはコース幅が狭いのですが、ターン1だけはすごく幅が広くて、インを突いても良いですし、アウトから仕掛けても大丈夫なので、DRSがあればかなりオーバーテイクができるサーキットだと思います。

 コースに関しても、ほとんどのドライバーが走ったことがあると思います。僕も何度もニュルは走っているのですが、1コーナーに関しては見ている側としても面白いサーキットになるのではないかなと思いますね。コース自体はそれほど高速ではなく、低速~中速コーナーが続くので、どうなるか楽しみですね。

<<プロフィール>>
中野信治(なかの しんじ)

1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長にスーパーGT、スーパーフォーミュラで無限チームの監督、そしてF1インターネット中継DAZNの解説を務める。
公式HP https://www.c-shinji.com/
SNS https://twitter.com/shinjinakano24

2020年Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GT 中野信治監督
2020年Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GTのチーム監督を務める中野信治氏。DAZNでF1中継の解説も担当


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