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F1 ニュース

投稿日: 2020.10.22 07:00
更新日: 2020.10.29 01:56

【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第13回】“十分なデータがない”ことがチャンスに。狙い通りの1ストップで9位入賞

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F1 | 【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第13回】“十分なデータがない”ことがチャンスに。狙い通りの1ストップで9位入賞

 2020年シーズンで5年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニリングディレクター。ニュルブルクリンクで7年ぶりに開催されたグランプリは、初日にまったく走れないという異例の事態で幕を開けた。十分なデータを集めることができないまま迎えた決勝レースだったが、ハースは唯一1ストップ作戦を成功させてポイントを獲得。わからないことが多い状態で、どのように週末を戦い抜いたのだろうか。小松エンジニアが現場の事情をお伝えします。

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2020年F1第11戦アイフェルGP
#8 ロマン・グロージャン 予選16番手/決勝9位
#20 ケビン・マグヌッセン 予選15番手/決勝13位

 アイフェルGPの前に、2021年限りでホンダがF1活動を終了するという発表がありました。現場の雰囲気としては、驚いているけれど、驚いていない、といった感じでしょうか。第3期の撤退は金融危機の影響を受けてのことでしたが、今はせっかくレッドブルと勝てるようになって結果が出始めたのにまたか……と感じている人もいるのではないかと思います。

 1980年代後半の圧倒的に強いホンダを観て育ってきたので、個人的にはなんとも中途半端な終わり方という感じがして残念です。今のホンダにはもう『夢』とか『DNA』とかって言葉を使う資格がないんじゃないですか。

 さてニュルブルクリンクでは、FP1でフェラーリドライバーアカデミー(FDA)に所属するカラム・アイロットを起用する予定でした。ニュルでFDAのドライバーを乗せることは随分前から決まっていましたが、カラムを乗せると決まったのは、実は前戦ロシアGPの日曜日の夜でした。FP1に向けて彼と話をしましたが、印象としては頭もいいし、いろいろなことを話すとその背景を理解したうえでちゃんと話ができるドライバーでした。

 たとえばFP1とFP2が共に雨でインターミディエイトタイヤでの走行になる場合は、基本的には金曜は1セットしか使いません(それ以上使うとレース用のタイヤで走ることになるので)。ですからもしFP1でカラムが1セット使いきってしまうと、FP2でロマンが使えるインターがなくなってしまいます。

 なのでFP1でのカラムの走行はタイヤを傷める前に止めなければいけないのでとても限られたものになります。だからといってまったく走らせないのでは彼にとってフェアでないので、ケビンと同じ周回だけ走ることを予定していると伝えると(たとえそれがたった3周だったとしても)、カラムはよく状況を理解していました。

 でも残念ながら、あの当時の状況(気温11度、路面温度12度)で走っても彼は何も証明できないし、こちらも何も判断できません。もしインターで走るとラップごとに大きくタイムが変わるので、見かけ上ケビンの3秒落ちのタイムで終わるかもしれない。実力を証明しようとプッシュしたら、コースオフするかもしれないし、下手したらクルマを壊してしまうことにもなります。そうすると彼の将来のチャンスは潰れてしまいますからね。

 だからあの状況で数周走るよりは、まったく走れず仕切り直しをする方がかえって良かったと思います。今のところは、もう一度どこかでカラムを乗せるという話はありませんが、今回の状況を考慮してまた話し合いの場が持たれるのではないでしょうか。

カラム・アイロット(ハース)
2020年F1第11戦アイフェルGP カラム・アイロット(ハース)

 7年ぶりのニュルでのレースでしたが、やっぱりここはいいサーキットですね。高低差があって、キャンバーのついたコーナーもあるし、シケインもコーナーごとにスピードが違うので、基本的にはすごく楽しいサーキットです。

 一方でターン4のトラックリミットが話題になりました。ターン4の出口は他のレイアウトと繋がっている箇所があるので、そこだけは人工芝やグラベルにできず人工的なトラックリミットが設定されています。ムジェロやモンツァでも思いましたが、やはりモンツァのパラボリカのようにコース外に膨らんでも何のロスもないので、人工的なトラックリミットを作るよりは、ムジェロのようにコースを出るとタイムロスする様に作ってある方がおもしろいと思います。

 予選Q1ではそのターン4でロマンがトラックリミットを越えてしまったので、1分27秒118というタイムが抹消されました。すごくいいタイムだったのですが、トラックリミットを越えたから速かったというわけではありません。ロマンは予選後、このタイムは「新品のソフトタイヤがあれば絶対に出せる」と言っていましたし、ケビンも1分27秒231と速かったので、出るべくして出たタイムでした。

 アンダーステアの出やすい状況にも関わらずあのタイムが出るということは、クルマ的にも、ドライバー的にもいいということです。他のドライバーのタイムを参考に計算して、Q1からQ2にかけてのタイムの伸び代は0.5秒くらいあったので、最終的な15番手、16番手という結果は残念でした。ケビンはQ2で明らかにオーバードライブしてしまい、コンマ1秒しか伸ばせませんでした。仮にロマンが27秒1から0.3〜0.4秒伸ばせていれば11番手か12番手あたりが狙えました。2台揃ってQ2に進めなかったのが悔やまれます。

ケビン・マグヌッセン(ハース)
2020年F1第11戦アイフェルGP ケビン・マグヌッセン(ハース)

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この記事は国内独占契約により 提供の情報をもとに作成しています

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