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F1 ニュース

投稿日: 2021.06.24 09:44
更新日: 2021.06.24 11:35

【中野信治のF1分析/第7戦】ホンダPUと戦術を武器にメルセデスを圧倒したレッドブルと繊細なドライバーのメンタル

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F1 | 【中野信治のF1分析/第7戦】ホンダPUと戦術を武器にメルセデスを圧倒したレッドブルと繊細なドライバーのメンタル

 トップ争いではやはり驚かされたのはフェルスタッペンの2ストップ作戦ですね。1回目のピット後、トップを奪って周回を重ねていたレース中盤、『そこで入るか!』と見ていた方はびっくりしたと思います。このタイミングでピットに入って追い上げられるのかということは外からでは正直分からないですが、チームとしても100パーセントまでは追いつける確信はなかったと思います。勢い的には最終的にオーバーテイクできましたが、周回遅れに引っかかるなどなにかアクシデントが起きたら分からなかったと思います。

 ただ、レッドブルは今回、タイヤのデグラデーションが相当悪いことが決勝レースの走り始めですぐに分かっていて、さらに、決勝日の朝に雨が降ったことを加味して計算していたはずです。そこから戦いは始まっていて、チームとしては『雨が降ってタイヤのデグラデーションは相当酷くなる』ことが予想できていたのだと思います。そこで『もしかしたら2ストップになる』か、それとも『若干気温が下がっているから、その分でタイヤを持たすことができるか』を考慮して戦略を考えていたはずです。

 ただ、2ストップに変更するためには絶対的なスピードが必要なので、その作戦をきっちり完遂できるのは誰かというと、やはりフェルスタッペンかハミルトンしかいないのだと思います。

 その半信半疑のなかで先に動いたのがレッドブルで、メルセデスは“蛇に睨まれた蛙”状態になってしまいました。第5戦のスペインGPでは逆の立場でしたが、今回はまったく逆のことをレッドブルがやり返しました。ですが、もしもフェルスタッペンが2回目のピットに入ったあと、すぐ翌周にメルセデスが反応していたら僕はハミルトンは勝負できていたのかなとも思います。

2021年F1第7戦フランスGP決勝レース
レース終盤、1ピット戦略のハミルトンを2ピット戦略のフェルスタッペンがオーバーテイクして優勝を決めた

 なぜあそこで反応しなかったのか、メルセデスの言葉を聞くと『今回はホンダパワーユニットのストレートスピードが速かった』という内容を話していました。もっと言うと、今回のレッドブル・ホンダはローダウンフォース仕様で勝負をしてきたということで、ストレートで追い抜く・追い抜かせないということを先読みしてクルマを作ってきていました。これは前戦のアゼルバイジャンとはまったく逆のコンセプトです。

 そのローダウンフォース仕様に加えて、今回はホンダのパワーユニットが非常に強力だということもあり、ハミルトンはレース後にも『ホンダパワーユニットはストレートが速い』ということを繰り返し言っていました『ホンダパワーユニットなのか、レッドブルのローダウンフォース仕様のおかげなのかは分からないけどね』ということも言っていたので、僕は遠回しにメルセデスの開発者にもしっかりとプレッシャーを掛けるハミルトンのインタビューを聞いて、今回のレースには負けたけど今後に向けての勝負には負けていないと感じながら聞いていました。

 その上で改めてすごいなと思ったのはレッドブルの戦い方ですね。シーズン序盤はメルセデスが相手の意表を突くような戦い方をしてきましたが、今回は見事にレッドブルが仕返しをしてきました。今年を象徴するようなストラテジストの戦い、AIによる豊富な戦略幅による戦いが繰り広げられ、そして、このふたりのドライバーだからこそできる今回の戦いでした。

 目に見えないところでも争いがあると、見ている方はたまらなく面白いですよね。出たとこ勝負ではなく、どちらも予想して動いていたと思うので、今回のフランスGPはその裏側が面白かったです。本当にいろいろな意味で今年のF1はドライバー、チームともに持てるすべてを使用して戦っています。

 フランスGPはトップ争いがかなり面白かったので、なかなか中段勢に触れることができなかったのですが、当然ながら中段グループもかなり面白い戦いが繰り広げられていました。フェラーリは、やはりまだ少し厳しいのかなと感じますね。前々から申し上げているとおり、予選一発ではパフォーマンスを引き出せますが、レースになると若干厳しそうに見えました。

 モナコとアゼルバイジャンは市街地サーキットでしたが、パーマネントサーキットに戻ってくると、フェラーリは決勝では特にシャルル・ルクレールがそうだったのですが、フロントタイヤがあっという間に酷いことになっていました。ルクレールのマシンはいまいち決まっていないのか、予選のときからアンダーステアに苦しんでいる印象でした。それがレースでも修正できず、さらに酷い状態になってしまって戦えていませんでしたね。

 今回はフェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)がすごく頑張っていました。アゼルバイジャンでも6位に入賞したので、なにかキッカケを作ったのかなと思います。アロンソとマクラーレン、そしてガスリーの争いも面白かったですね。前戦からセバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)もいい走りを見せていて、アゼルバイジャンの表彰台は自信になったのだと思います。

 当然、その入賞圏内の争いに角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)も加わってほしいところです。今回は予選でのクラッシュがすべてでした。ただ、あまり外から見ている我々がネガティブなことを言うのはどうかなと思いますし、角田本人も当然、ミスをしようとしてしているわけではない。

 自分で自信を持ってあの1コーナーの縁石に乗って、そこでさらにイン側のソーセージ状の縁石に乗ってしまいクルマが跳ねてクラッシュという、あのコーナーだからこその出来事です。本当に1コーナーのイン側はドライバーから見えづらいので、感覚でコーナーに進入していき、そこでの速度を誤ったということと、タイヤが若干温まりきっていなかったのかなという気もします。

 今回に関しても、決勝のペースを見てもクルマを速く走らせる能力に関して疑う余地はないですし、うまくまとめ上げたときには爆発的な速さを発揮することはチームもドライバー自身も理解していると思います。ただ、その理解が過信とまではいかないですが、少しスキになっている感じがあります。

 現時点での角田のメンタルの強さ、自信というのは、いまのところ諸刃の剣の状態なのかなと思いますが、ハマったときは強烈な強さを発揮するので、周りがそれを殺してほしくないなと思います。当然、クルマを壊してはいけないことを学ばないといけないこともありますが、それは当然のこととして置いておいて、もう片方の部分では、いま持っている自信を持ち続けるんだという思いで、僕は角田選手を見ています。

<<プロフィール>>
中野信治(なかの しんじ)

1971年生まれ、大阪出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在は鈴鹿サーキットレーシングスクールの副校長として後進の育成に携わり、F1インターネット中継DAZNの解説を担当。
公式HP https://www.c-shinji.com/
SNS https://twitter.com/shinjinakano24


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