更新日: 2022.09.19 15:05
プジョー9×8、富士でもっとも注目を浴びたマシンの2戦目の進化。トラブルの対応も高まるチーム力
ついに日本に上陸したチーム・プジョー・トタルエナジーズのル・マン・ハイパーカー、『プジョー9X8』。3年ぶりの開催となったWEC世界耐久選手権、富士スピードウェイで最も大きな注目を集めていたのは、この先進的スタイリングを持つプロトタイプマシンだった。
走行前日の9月8日木曜日、ピットストップ練習のためガレージ前に置かれたプジョー9X8の周囲には、常に多くの日本のメディアやレース関係者が集まった。“リヤウイングレス”という一番の特徴だけでなく、流麗なフォルム、そしてマシン各部の細かな造形と、「これまで見たことがない」新鮮なデザインが盛り込まれ、9X8は完全に富士で主役の1台となっていた。
プジョーはデビュー戦となった7月のモンツァ6時間レース以降も、複数回のテストを行い、準備万端整え日本にやってきた。ロイック・デュバル、ジェームス・ロシターといった日本に馴染み深いドライバーにとっては、“第2のホームレース”でもあるからだろう。デビュー2戦目ながら、好成績を残したいという意欲がチーム全体から漂っていた。
迎えた9月9日金曜日のフリープラクティス1、プジョーの2台は総合3&4番手につける。注目すべきはトップのトヨタとのタイム差。3番手の94号車は0秒268、4番手93号車は0秒567と、モンツァ以降の改善が僅差のタイムとなって現れた形だ。
翌土曜朝のフリープラクティス3では、93号車が2番手、94号車が3番手と好調をキープ。多くのファンがプジョーの6人のドライバーのサインを求め行列を作ったピットウォークを挟み、チームは15時から10分間の予選へと挑んだ。
93号車のアタックを担当したのは、ジャン・エリック・ベルニュ。アウトラップ翌周に1分30秒000というラップタイムを記録する。ベルニュは次の周以降も積極的にタイム更新を狙い、計4度、1分30秒台をマークするも、惜しくも最初のアタックを上回ることができなかった。
デュバルが予選を担当した94号車は、最初のアタックで1分30秒427をマーク。次の周には1分30秒152とさらにタイムを縮めることに成功し、これが94号車のベストタイムとなった。
この結果、2台のプジョー9X8は93号車が4番グリッド、94号車が5番グリッドから、決勝レースをスタートさせることになった。予選のタイムや最高速のデータを見る限り、3番グリッドのアルピーヌとは好レースを演じることが期待され、デュバルも予選後には「レースでは表彰台を目指す」と力強く語っていた。
9月11日(日)10時59分、晴天のもと、日本のファンが3年間待ち侘びたレースの幕が開けた。プジョーの2台は6時間の長丁場で好調なスタートを切り、序盤はテール・トゥ・ノーズの状態で順位をキープして周回を重ねていく。やがてペースが良い94号車のロシターが、93号車の前に出た。
ロシターの数秒前にはアルピーヌ36号車が走行しており、戦略次第では表彰台は依然射程圏内にあった。
1時間が経過する頃、ハイパーカークラスの車両が相次いで最初のルーティンピット作業を行うと、ここでロシターがアルピーヌを逆転、94号車は3番手へと浮上することに成功した。
ロシターはスタートから2時間が経過する直前にデュバルへと交代し、レースは中盤戦へ。白熱の表彰台争いを演じることが期待されたが、その30分後に94号車はまさかのトラブルに見舞われる。リヤから白煙を吹き上げるマシンを、デュバルはピットへと運んだ。
トラブルの原因はエンジンのプラグの緩みによるオイル漏れだった。チームのメカニックは20分という作業時間で問題を解決すると、94号車は再びコースへと出ていった。
一方、ベルニュがスタートドライバーを務めた93号車はミケル・イェンセンが中盤を担当したあと、3時間55分経過時点でポール・ディレスタへとバトンをつないだ。だが、交代を終えてコースに出ていったディ・レスタは、すぐに再びピットへとマシンを戻してしまう。
93号車はガレージに入れられ、修復作業へ。こちらも94号車と同様のトラブルに見舞われていた。チームは93号車のトラブルに対処した経験をすぐに活かし、7分半でディ・レスタをコースに送り返す。
2台はともにトラブルに見舞われたことで、表彰台争いからは脱落してしまった。しかし陽が傾いた終盤も好走を続け、チェッカーフラッグまで6時間のレースを戦い抜いた。トラブル修復のロスタイムがより少なかった93号車が全36台中の総合4位、使用エネルギー量超過による1分間のストップペナルティも受けた94号車は20位という結果となった。
目標としていた表彰台には届かなかったものの、デビュー戦で見舞われたような致命的なトラブルが生じることはなく、レースペースも良好だったことは、プジョー陣営の大きな収穫となった。
また、ピットでの素早い修復により最低限のロスタイムでマシンをコースへと戻せたことも、耐久レースを戦うチームとしては今後に活きる経験となったはずだ。
「モンツァ以降、マシンは本当に進化しているので、チームのみんなに感謝している」とレース後に語ったロシターは、自らが担当した序盤のスティントについて「9X8のバランスは完璧だった」と高い評価を下している。
また、デュバルは「まだ学ぶべきことは多い」としながらも、決勝で刻むことができたペースの良さには、いい意味で驚いたという。
チーム・プジョー・トタルエナジーズのテクニカル・ディレクターを務めるオリビエ・ジャンソニーは、「この調子で(最終戦の)バーレーンに向けて前進していければ、非常にポジティブだと思う」と前向きなコメントを残している。
「日曜日のレースでは最初の2スティントで良いペースを見せることができたので、これからはパフォーマンスを上げることに集中するつもりだ」
11月に行われるバーレーン・インターナショナル・サーキットでの最終戦までには、さらなる走行テストも予定されているという。爪を研いだライオンの真価は、8時間のロングレースとなる最終戦で問われることとなりそうだ。
FIA世界耐久選手権 富士6時間耐久レースでのチームプジョートタルエナジーズのハイライト映像をご覧ください。チームにとって大きな前進がありました。応援ありがとうございました。#Peugeot #プジョー #Peugeot9X8 #WEC #WECjp #6HFuji #WEC富士 pic.twitter.com/dt4TvIqc6M
— Peugeot Japan (@Peugeot_Japan) September 12, 2022
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