これまで何度も“名言”を残しているキミ・ライコネン。アメリカGPではバトル相手のルーキーに対して、いらだっているような言葉が流れた。しかし、目的はドライビングを非難することではなく「どこまで許されるのか知りたかった」のだと言う。アイスマンの考えていたことを明らかにする。
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「あのガキ(マックス・フェルスタッペン)が何度も僕を押し出そうとした。仕掛けるたびに、やるんだ。あれは合法なのか? それなら僕も同じようにやる」
18番グリッドから猛烈な追い上げで8番手まで浮上してきたライコネンは、前を行くフェルスタッペンを追いかけていた。13周目から何度も仕掛けていったが、コース幅いっぱいに使って走るフェルスタッペンとは接触寸前の場面も何度かあった。
ともすれば「こっちもやり返す」という意味にも取られかねない発言だったが、それはライコネンの真意ではなかった。
「僕は彼のやったことに対して文句を言ったわけではなくて、何がOKで何がOKでないのかをハッキリさせたかっただけだよ。コーナーの出口でサイド・バイ・サイドになって、アウト側のクルマを縁石の上まで押し出すことが許されるのかどうか、それを尋ねたかっただけだ」
感情にまかせて叫んでいるようにも聞こえたが、ルールの明確化と公平性を求めるための言葉だった。前戦ロシアGPではバルテリ・ボッタスと接触してペナルティを受けたものの「チャンスがあれば、これからも攻める」と言ったライコネンらしい意見だった。
「次に誰かが同じことをやっても問題にされないのであればいいけど、ペナルティを科されるというのであれば、それはおかしい。常にみんなが同じルールで判定されるのなら、それでOKだ」
なかなかフェルスタッペンを抜けずにいたライコネンは、ソフトタイヤに換えた直後の19周目にターン7のブレーキングで濡れていた路面に足をすくわれ、リヤが流れてコースオフしてしまった。
「OK、タイヤは用意しておくよ」
なんとかコースに復帰して、ピットに戻って壊れたノーズを交換したが、ダメージはそれだけではなかった。レースエンジニアのデイブ・グリーンウッドが伝える。
「キミ、右フロントのブレーキ温度が完全に上がってしまっている。スローダウンしてピットインしてくれ、リタイアする」
しかし、とっさの判断でマシンへのダメージを軽減させたのは、さすがライコネンと言うべきマシンコントロールだった。まっすぐタイヤバリアに刺さって、その場でリタイアとなっていてもおかしくなかった。
「あまりランオフエリアがなかったから、マシンの向きを変えてスライドさせながらバリアにヒットさせたんだけど、ブレーキダクトが壊れてしまった。看板のボードにフロントが引っかかってしまったから、ステアリングを左右に動かして、なんとか引きはがそうとしたんだ」
ステアリングを左右に切って、必死にコースへと戻ったライコネンの行動を、マウリツィオ・アリバベーネ代表はポジティブに受け止めた。
「バリアから抜け出そうと懸命に努力したことは、今年のフェラーリが持つ魂を体現していたね!」
土曜の予選が雨でディレイしている間、多くのドライバーやチームスタッフが思い思いの余興でファンを楽しませた。だが、ライコネンは「僕らはサーカスじゃない。走りでファンを魅了すべきだ」という自らの考えに従った。オースティンでは結果こそ残念なものに終わってしまったが、その精神を十分に見せてくれたと言えるだろう。