初めての表彰台でトロフィーを受け取った瞬間、笑顔に24歳らしい若さが溢れ出た。シャンパンファイトは、まず、喉をうるおしてから――。

「これまでで、一番美味しいシャンパン」は、F1デビューから27戦目で味わった。バルテリ・ボッタスが端々で証明してきた実力を考えると、すべてがひとつにまとまるまで、思ったより時間がかかったかもしれない。去年はマシンの性能不足に苦しんだ。シーズンオフに好調なテストを重ねた後、今シーズン序盤も何度かチャンスを逃してきた。チームの作戦が機能しないことも、ドライバー自身がミスをおかしたこともあった。

 モントリオールに続いて、メルセデス・パワーが最大限に活きるレッドブルリンク。ウイリアムズFW36の特性にも合ったコース。それでも、彼らが予選でフロントロウを独占するとは誰も予想していなかった――A1リンクと呼ばれた時代にもアンダーステアの問題が出やすかったレイアウトに加えて、今年の硬いコンパウンドではほとんど全員がフロントタイヤを作動させるのに苦労した。メルセデス・ワークスでもルイス・ハミルトンはQ3の2度のアタックで失敗。ニコ・ロズベルグもアンダーステアに悩んだ結果、3位のタイムに留まった。

「他のチームもほとんど、我々と同じアンダーステアの問題を抱えたと思う」と、土曜の夕方トト・ウォルフは説明した。「ウイリアムズの速さは、彼らのマシンが特別にこのコースに合っているのが理由だろう。しかし予選を制した後、レースでペースを落とすということは、去年の我々も何度も経験したからね。明日のレースを見てみよう」――ウォルフはこう続けて、メルセデスの自信を示した。

 メルセデスが完璧な予選を戦えなかったのと同時、レッドブルの不振もウイリアムズのフロントロウ独占に貢献した。ストレート速度はルノーの弱点であっても、ターン3から先、最終コーナーまでの区間ではレッドブルのコーナリング性能が活きるはずだった。しかしチャンピオン=セバスチャン・ベッテルも、カナダの勝者ダニエル・リカルドも、思いのほか苦労した。

「セクター2と3では僕らの速さが活きると予想していたけど、他のチームはもっと上手くタイヤを働かせる方法を見つけたようだ」と、リカルドが言う。“レッドブルリンク"がチームにとって最大の難所になってしまった。

 ウイリアムズだけが、1周のウォームアップで即、フロントタイヤを作動させることに成功した。フェリペ・マッサは2008年ブラジルGP以来のポールポジション。Q2でマッサを抑えたボッタスは、Q3最後に「ターン6を攻めすぎて」ミス。それでも“敗れて悔いなし"の表情が明るい。「メルセデスが力強いペースを備えていることはわかっている。僕らにできるのは、全力を尽くすことだけ――1コーナーの後、可能なかぎり前進して1周目を抑えることだ」

 スタートでは、3位のロズベルグが間を縫って前に出た。しかし1コーナーの先の長い上り坂で、ボッタスは臆することなく選手権リーダーを抜き返していた。

 第1スティントは予選のポジションを維持した。ボッタスにとって、表彰台への鍵となったのは最初のピットストップ。スーパーソフトは性能低下が早く、ロズベルグは11周目に、ハミルトンは13周目にソフトに交換したが、ウイリアムズは彼らの作戦に対抗しようとはしなかった――レース距離でメルセデスを抑えることは不可能。大切なのはレース後半に破綻しないため、最初のスーパーソフトでカバーすべき周回を走ることだった。マッサは14周目にピットイン。ボッタスは性能が落ち始めたタイヤでさらに1周ステイアウトすることが必要で、本来ならこれは不利に働くはずだった。ところが15周目にボッタスを迎えたウイリアムズのピットは、2.1秒(!)という最速のタイヤ交換を実現。コースに戻ったボッタスはハミルトンの鼻先で1コーナーを通過し、2コーナーの勝負でもメルセデスに屈しなかった。第2スティントの実質上のオーダーは、ロズベルグ、ボッタス、ハミルトン、マッサ。

 ボッタスのピット作業はマッサより1.2秒、速かった。しかし1位、2位だったふたりのポジションが逆転、2位‐4位と“大きく"開いてしまったのは、ピット時間だけのせいではない。タイヤ交換に3.3秒を要したマッサは、ピットアウト後の2コーナーで「タイヤのウォームアップができているメルセデス(=ハミルトン)」に先行を許し、ステイアウトしていたキミ・ライコネン、セルジオ・ペレス、ケビン・マグヌッセンの後ろで3秒もロスしてしまった。ボッタスはその1周後、同じ2コーナーでハミルトンを抑え、ロズベルグの真後ろを走り続けたのだ――30周目の1コーナーでロズベルグがオーバーランした直後には、セクター2で首位のポジションにも挑戦した。

 2回目のピットインではハミルトンに2位を奪われた。しかしボッタスにとってメルセデス2台に続く3位は勝利と同じ。チームと苦労をともにした2013年を思うと「今の気持ちはうまく表現できない」と言葉を詰まらせた。

 ボッタスの“勝因"は、レース中のもっとも重要な瞬間に集中力を発揮してメルセデスを抑えたうえで、ゴールまでペースを維持したことにあった。

 山岳地帯の日射は厳しく、気温は24℃でも路面温度は45~47℃まで上昇した。パワーユニットを酷使するコースでは熱対策が重要で、低い気圧もダウンフォースに影響を与えた。2014年の重いマシンと高低差のあるコースの組み合わせはブレーキにも過酷で、メルセデス・ワークスさえ、パワーユニットのマネージメントとブレーキにはとくに慎重になった。

そんなレースだったからこそ「すべてが、プランしたとおりに進んだ。クリーンに走れた、最高のレースだった」というボッタスの言葉には、とても深い意味がある。

 ミカ・ハッキネンに憧れて育った少年の才能を見出したのは、ハッキネン自身だった。ケケ・ロズベルグとミカ・ハッキネンの活躍のおかげで、フィンランドの短い夏には「全員がゴーカートで走る」文化ができたのだと説明した。それに「精神的に冷静で、プレッシャーをかなり上手く処理することができる」のは、フィンランド人の特性。さらに「みんなが勝負好きだ」

 自らのミスを正視することによって成長してきたドライバーは、レッドブルリンクの成功からさらに多くを学ぶはず――27戦目で、レースのパズルが完成した。

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