バーレーンGP、セーフティカー明けの数周は、メルセデスの2台が他の誰よりも2秒以上速いペースで走行した。47周目の再スタートからの11周で、優勝したハミルトンと3位ペレスの間隔は24秒。
現段階で、メルセデスは無敵――しかし“11周で24秒"という差を「メルセデスが本気で走ると1周2秒も速い」と解釈する必要はない。何故なら、41周目にセーフティカーが入ってからの5周、他の誰よりも燃料セーブできたのがメルセデスだから。彼らが即、セーフティカーのペースで走行したのに対して、3位以下のマシンはメルセデスとの間隔を埋めるため、彼らより30秒速いペースで走行しなければならなかった。
セーフティカー導入によって首位と後続のマシンの間隔が一気に詰まっても、今年のレースでは、トップのマシンのアドバンテージはゼロにはならない。セーフティカー前のリード分だけ、他のマシンよりはるかに燃費の良い走行が可能になるからだ。
メルセデスと他チームの本当の差は、セーフティカー前の40周目までの50秒。アンタッチャブルであることに変わりはないけれど――バーレーンと上海の違いは、上海には“本物の"コーナーがあること。もともと、中~高速のコーナーにおいては、レッドブルも負けてはいない。そして、開幕時点では「予定より1ヵ月遅れ」を認めたルノーのパワーユニットが、開幕から1ヵ月を経た今、本来目指していたパフォーマンスを発揮してくる。それによって、コーナリング性能に優れたレッドブルがどこまでメルセデスに近づけるかが、見どころになる。
純粋なパワーにおいては、メルセデスの優勢に大きな変化はないはずだ。MGU-Kによる回生エネルギーのパワーは120KWという性能制限があるため、V6ターボの差が最大出力の差になる――しかしハードウェアの開発はシーズン中は凍結されているため、V6ターボの性能が一気に変化することはあり得ない。
ただし、テストから順調だったメルセデスに対して、ルノー勢が様々な対策に追われてきたことは事実で、その中にはパワーを犠牲にした対策も含まれた。たとえばターボエンジン特有のノッキングを抑えるために、点火時期を遅らせるというふうに――これによってV6ターボは本来のパワーを発揮できないのと同時に、本来より高温で排出される排気ガスがより多くの熱対策を要求した。これは、新しい技術が生む試行錯誤の氷山の一角。
さらに大切な焦点は、グランプリ3戦+テストを経験した各メーカーの、エネルギーマネジメントの進化にある。バーレーンのセーフティカー後は“燃費という拘束が解かれればレースはこんなにコンペティティブになる"という例だったが、5~6周のセーフティカー走行で、ドライバーはこんなに自由になる。パワーユニットの“使い方"が急速に進歩していることを考えると、100kg/レースという規制は徐々に、ファンの目には見えなくなることと思う。
ルノーは、バーレーンGP後のテストでドライバビリティが向上したことを公にしており、その改善はとりわけ、レース距離の走行に影響するとしている。予選では負けても“レースではフルパワーで走れる時間が長いですよ"と、示唆しているのだ。ふたつのヘアピンでは大きな運動エネルギー、ストレートでは熱エネルギーの回収が可能であると同時、コーナーの立ち上がりではガソリンの消費を抑えながら、電気エネルギーとV6ターボからくるエネルギーの“調合"がスムーズに行われると、解釈することができる。
上海のバックストレートはラップタイムに十分影響する長さであるものの、大切なのはトップスピードよりもコーナーの立ち上がりで、その点での進歩を彼らは主張している。そしてストップ&ゴーのバーレーンとは異なって、上海のストレート手前――ターン12~13ではコーナリング性能が活きてくる。メルセデスのパワーユニットが優勢であっても、バーレーンのレース終盤、ダニエル・リカルドがニコ・ヒュルケンベルグを抜き、ゴール直前にはペレスの真後ろまで迫ったことを忘れてはならない。セーフティカーの後ろでは、フォースインディアより後方にいたレッドブルのほうが、速いペースで追いつかなければならなかった=セーブできた燃料はリカルドのほうが少なかった状態で、あのパフォーマンスだったのだ。
開幕4戦で大きな変化は望めない。それでも、メルセデスの1-2を崩してヨーロッパラウンドにつなげるためには、レッドブルが追撃しなければはらない。セパンでは、2位ニコ・ロズベルグと3位セバスチャン・ベッテルの差が7・2秒。ルイス・ハミルトンかロズベルグがタイヤに苦しめば、この差を埋めることは可能だ。
そして。天気予報では、土曜は雨。セパン同様に、ベッテルが(これまでずっと行ってきたように)コーナー重視のセットアップで走行すれば、ウエットは有利になり、予選でリカルドの前に出る可能性は高い。しかしメルボルンとバーレーンの予選でベッテルに勝ったリカルドはウエットの予選を徹底的に研究しているはず――ナイスガイではあるけれど、彼はけっしてお人好しではない。派手に見えなくとも、コーナーひとつとってもレース距離で見ても、非常に頭脳的なドライバーであり、しかも感性や素早いリアクションが重要な高速コーナーでも速い。
開幕3戦では各セクターの通過スピードも最高速も、常にリカルドのほうが3km/hほど速かった。13年までのF1では、通過スピードはタイムに反映されず区間タイムのほうがはるかに重要な意味を持っていたけれど、今年は違う。ダウンフォースは抵抗となり、ガソリンという代償を支払わなくてはならないため、速度が遅い=ガソリンを多く使っている、という事実がレースに影響する。バーレーンのレース中、ベッテルがパワーダウンを訴えていたのも、おそらく、エネルギーマネジメントによって燃料供給が抑えられたためだ。もし上海の予選が雨でもリカルドに先行される、あるいはリカルドを大幅に引き離せないようなら、ベッテルはこれまでのアプローチ――コーナー入り口の安定と、加速時の前後均一なスライドを強みとするセットアップ――を見直さなければならない。
バーレーンでは最悪のレースを経験したものの、フェラーリにとっても上海は“手にしたマシン"を活かせるチャンスで、ウイリアムズは間違いなく捕えられるはず。フェルナンド・アロンソは今では“宿敵"となったヒュルケンベルグに先行されてはならないし、ターン12~13を得意とするキミ・ライコネンは、フェラーリPUでもDRS区間前にフォースインディアをかわさなくてはならない。
チーム代表のステファノ・ドメニカリが退いたフェラーリ。事実上はボスのいない状態で、現場チームが見せる底力は、ヨーロッパラウンド以降の大きな指標になる。上海の次はアロンソの地元スペイン=フェラーリの重点グランプリ――中国GPのフェラーリを率いていくのは、1年前のこのグランプリの覇者、フェルナンド・アロンソだ。