19日に幕を開けたF1バーレーンGP。国内情勢に不安を抱えたままでの開催となっているが、テロや事件の危険性はないのだろうか? F1界のボスであるバーニー・エクレストンに、直接インタビューする機会を得た。

 2011年に反政府デモの影響を受けて開催を中止したバーレーンGP。昨年、2年ぶりにF1は復活したものの、国内情勢は依然として不安定なままで、F1関係者を狙った抗議活動も見られた。アラブの春が起きた2011年から2年以上経った今も、バーレーンでは反政府活動は続いており、今年も4月に入ってからデモ隊に向けて警察が催涙ガスを放ったり、市内の車両に仕掛けられたガスボンベが爆発するなど、混乱は続いている。そんな中、アラブの春以降、2度目の開催となった今年のバーレーンGP。なぜ、F1はバーレーンへ行ったのか。バーレーンGPが開幕する直前にバーニー・エクレストンが、その胸中を語った。

「耳にすることがすべて悪い方向へと流れている。それを聞けば、皆あの国を訪れたくないと思うだろうし、同情的になることだろう。しかし、何が真実で、どちらが正しいのかを判断することは非常に難しい。実際、私は反体制派の代表とも話をしたし、我々と取引している側(体制派)とも話をしたが、実際、誰が正しくて、どちら側が間違っているかは、私にも分からない」とエクレストンは語る。

「だから、真実を把握しているのは我々だ。いや、私だ……と言うつもりはない。ただ、ひとつ言えることは、どのような状況でも、そこから自分がアドバンテージを得ようとする人々がいるということだ。なぜなら、F1のような国際的なイベントは、テレビ中継によって全世界に映し出されるからだ。ロンドン五輪のときもそうだった。イギリス政府、そしてその開催者たちは、何かが起こった場合にどうしたらよいかと、相当危惧していたよ。ともかく、何か問題があるなら──いや、もちろんあるのだろう。何もなければ人々は騒いだりしないのだから──解決策を見いださなくてはならない」

●体制派、反体制派の両方と話をしているエクレストン
 意外と知られていないことだが、エクレストンは昨年は反体制派と直接電話で話をしている。今年のバーレーンGP期間中に誰かと直に話をする予定はあるのだろうか?

「反体制派の人々とは、すでにロンドンでも会って話をしているし、バーレーンでも行っているよ。反体制派の代表と話をしてみると、彼らは非常に常識のある、地に足の着いた人たちだということだ。だから、先ほども言ったように、両者の言い分がどちらが正しくて、どちらが間違っているか判断するのが難しいんだ」

「もしかしたら、どちらも間違っているかもしれない。だとしたら、両者が歩み寄って解決策を見いださなくてはならないということには、同意とまではいかないまでも、そう理解しているつもりだ。しかし具体的に、私が何か行動に移すという段階には至っていない」

 中止に追い込まれた2011年や、混乱が続いていた2012年に比べれば、今年はやや落ち着いていたように見えるが、それでも政情が不安定なバーレーンでグランプリを開催することに対して、安全面で懸念している人々がいたことも事実だ。エクレストンはバーレーンでの安全性をどのように考えていたのだろうか。

「反体制派の人々が“悪いこと”を企てたり、バーレーンを訪問した人々を攻撃するようなことはまずないと考えている。なぜなら、すでにあらゆる反体制派の人々からの意見を聞いており、彼らがそのようなことをする人々でないことを私は理解しているからだ。ただし、いつの時代にもあることだが、こういった機会を利用しようという人々が常にいることも忘れてはならない。それがもっとも危惧していることだ」

「ただし、私が思うに、この国でいま起きている最大の問題は、一国の政治に口を出したがる一握りの人々が、状況をあまり理解しないまま必要以上に騒ぎ立てているということだ。我々の国(イギリス)でもそうだが、向こう側で起こっていることに関しても、何かというとすぐに『国が悪い』と決めつけたがる。まあ、このような風潮は世界中どこにでもあることだが……」

●なぜ、今年もF1はバーレーンへ行ったのか
 2012年にバーレーンを訪れたとき、王族(体制派)でも、抗議活動を行っている反体制派でもない、一般市民からは「これ以上、混乱が続くことは願っていない」という声もあった。

「まったくその通り。私は彼ら(反体制派)に言ったよ。『もし、自分たちが達成したいと願っているものを、本当に達成するためには、そして、国での支配力を強めたいと思っているのなら、強力で、世界中から尊敬を勝ち得ているような国を支配しているほうが得策だ』とね。つまり、自分たちの国を弱体化させる行為は、体制派との闘争に関しては有意義かもしれないが、他国からの信用を得るためには、まったく意味をなさない行為なんだ。強力な国家を掌握しているほうが良いに決まっていることは、ほかの中東諸国でいま起きている政情不安を見ればわかるはずだ」

 なぜ、今年もF1はバーレーンへ行ったのだろうか。

「自分勝手だと思われるかもしれないが、我々ができることは、バーレーンへ行って、良いレースを披露することだけだからだ。そして、レースが終われば、静かに去るだけ。そこではトラブルなど見たくはないし、我々の理解が及ばないことについて、自分たちが関与するつもりもない。私はそこでこれ以上、人々が争うのも見たくはないだけだ」

 一方で、バーレーンGPを開催しているのが体制派なので、F1が体制派寄りだという意見もある。しかし、エクレストンはこれまでも反体制派の人々と対話してきており、必要があれば、今後もバーレーンで彼らと会うつもりだという。

「我々が体制派寄りだって? まったく理解できない。さっきも言ったように、私はどちらの体制とも会話している。にもかかわらず、『すべてが我々の落ち度だ』と言っている人がいる。私と話したい人がいるなら、体制派だろうと、反体制派だろうと、喜んで応じるよ。いずれにせよ、F1が開催され、それが無事に終われば、それは体制派とか反体制派に関係なく、バーレーン国民全体にとって有益なことになることは間違いない。体制派だけでなく、反体制派もメディアが自分たちの国について報じてくれることを非常に喜んでいるからだ。ただ、報道に偏りがないことは双方とも望んでいる」

 反体制派の主張は抗議活動を通して聞こえてくるが、体制派、つまり王族たちと私たちは話す機会がない。バーレーンGPは体制派の主張を聞く良い機会になるはずだ。

「もちろんだ。こちらからも会話の願いを申し出るつもりでいる。バーレーンGPはその話し合いの場となる良い機会だからね」

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