ケータハムF1チーム、マルシャF1チームが相次いで経営危機に見舞われている。ともにアメリカGP、ブラジルGPを欠場するというから、経営危機は本当なのだろう。というのは、F1チームは経営が躓いていなくても、オーナーが売りに出すことがよくあるからだ。その場合はチームを起こしてF1に参加しようとした設立時のオーナーではなく、それを譲り受けた2代目、3代目のオーナーに多い。彼らの本職はモータースポーツではなく、投資家であったり起業家であったりする。彼らはF1チームを投資の対象としてしか見ず、価値が出て来たところで売り払って現金を入手しようとする者が多い。
今回の経営危機に見舞われている2チームのうち、ケータハムはそのスタートから問題を抱えていた。2010年にトニー・フェルナンデスが“ロータス・レーシング”の名前でF1参戦した際、同チームは名称使用権問題に翻弄された。ここでその経緯を詳しく述べることはしないが、恐らくフェルナンデスはこの時F1界に蔓延する権利問題の煩雑さのために、チーム運営に興味を失っていたのだと思う。おまけに成績はボロボロだった。ケータハムF1チームに名前が落ち着いてからも、成績はサッパリ。今年初め、不甲斐ない成績に業を煮やしたフェルナンデスは「成績不振が続くようであればF1から撤退する」とチームのスタッフに忠告してもいた。2012年にケータハムF1チームになってから、選手権ポイントを1点も獲得していなかった。
その忠告通り、2014年シーズンの途中でフェルナンデスはギブアップ、チームを新しいオーナーであるスイスと中東の投資家集団エンゲーベストに売却した。この売却に関しても売り手と買い手の間で問題が起こり、現在は管財人の手に委ねられている。フェルナンデスからケータハムF1チームを買い取ったエンゲーベストは、ケータハムF1チームを第三者に転売して利益を得ようとした。とにかく、この手の輩が跋扈するのがF1パドックである。
しかし、ここで改めて書いておくが、今回ケータハムとマルシャを襲ったF1チームの経営難は、何も今に始まったことではないということ。F1グランプリの長い歴史の中では何度も何度も繰り返され、チームは生まれては消え、買い取られては売り飛ばされてきた。まあ、いわばF1グランプリの世界では日常茶飯事である。参考にいくつかのチームを挙げておくと、オーナーが逮捕されたアンドレアモーダ、エンジン代を支払えなかったフォルティコルセ、30億円の負債を抱えて倒産したプロストを初めとして、カウーゼン、ライフ、オニクス、パシフィック、リアル、シムテック……と枚挙に暇がない。
ではなぜケータハムのトラブルがこれほど取り沙汰されるのだろう? その答えは明白だ。それはとりもなおさず、小林可夢偉の所属するチームだからだ。小林はザウバーから1年のブランクを経てケータハムに加入したが、ファンからの寄付金を持ち込み、ノーギャラでレースを走るという、どえらいことをやってしまった。今や情熱だけでF1グランプリに留まっているといっても過言ではない。ただ、力のある小林をもってしても、ケータハムのマシンの性能の低さでは打つ手が無く、最後尾を、唇を噛みながら走るしかなかった。そして、そこへチーム崩壊の危機が訪れたのだから、なにをか言わんや、である。どこまで不運なドライバーなんだろう、なんて小林は可哀想なんだろう、とファンはヤキモキするのだ。
もし、小林がケータハムに乗っていなかったら、ケータハムF1チームがどうなろうと、日本人F1ファンにとればどこ吹く風だったに違いない。「ケータハムが潰れたよ」、「マルシャがやばそうだぜ」、と誰かが言っても、ファンは「あ、そ」と返事をするだけだっただろう。しかし、現実に小林はケータハムのドライバーであり、そのケータハムが存亡の危機にあるのだから、日本人F1ファンは心配するのである。
しかし、今シーズンの小林に関して心配することはもう止めてもいいのではないだろうか。彼にとってより重要なのは来シーズン以降の身の振り方で、そこに関して我々は心配するというより期待したい。ただ、アメリカGPの現場で小林はホンダに秋波を送る発言をしたようだが、秋波を送るということは現状として何も決まっていないことを公言したようなもの。ここはもう少し冷静に言葉を選ぶべきだったように思う。グローバル・スポーツの世界は難しい。
赤井邦彦(あかいくにひこ):世界中を縦横無尽に飛び回り、F1やWECを中心に取材するジャーナリスト。F1関連を中心に、自動車業界や航空業界などに関する著書多数。Twitter(@akaikunihiko)やFacebookを活用した、歯に衣着せぬ(本人曰く「歯に衣着せる」)物言いにも注目。2013年3月より本連載『エフワン見聞録』を開始。月2回の更新予定である。
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