暫くご無沙汰していたので書きたいことが沢山あるが、他のジャーナリストの方々が色々と書かれているので、私は静かにひとり語りをしようと思います。ひとり語りの矛先は、連載のタイトル通りにF1です。それもみんなが気にしているマクラーレン・ホンダに関してです。

 そのマクラーレン・ホンダですが、メルボルンではホンダF1責任者の新井康久さんがメディアの攻撃を受けて可哀想でした。ひとつには、テストでパワーユニットの熱問題が出て十分に走る込むことが出来ず、その上プラクティスや予選のタイムがトップから3秒も4秒も遅かったために、レースを前にした会見で多くのメディアから手厳しい質問を投げつけられていた点です。まあ、実際に遅かったのだから仕方ないのですが、「メルボルンのように涼しいところで熱問題がでるなら、次のマレーシアでは燃えてしまいますよ」というような質問がでて、新井さんは困った表情をしていました。

 もうひとつは、そういった質問に新井さんが英語でバッサリと切り返せないことです。英語を母国語にしない日本人ですから仕方ないといえば仕方ないですが、「問題は分かっている。でも簡単には直せないんだ。それが出来りゃあせわないよ!」と、日本人メディアと話す時のように具体的な内容でしっかりと切り返せるようになれば、外国メディアの反応も変わってくるはずです。そういうことに新井さんが慣れるまで、通訳を付けてもいいんじゃないかと思います。

 ところで、そのマクラーレン・ホンダですが、私がメルボルン決勝後の新井さんのスクラム(囲み会見)での応答を聞いた限りでは、ホンダの技術者は直面している問題をしっかりと把握しており、解決の手はずを整えようとしていることがわかりました。問題の本質を理解していれば、解決できないことはないでしょう。

 実は、ホンダと同じような問題を解決してきた自動車メーカーを知っています。その自動車メーカーとは、WECに参戦しているポルシェです。彼らのパワーユニットもF1同様にターボエンジン+モーターのハイブリッドです。ターボ熱をエネルギーとして使用するには、エンジンのコントロールシステム等が熱に晒されることは避けられません。それをいかに排除するかが、問題を解決する糸口です。彼らもテストでは熱問題に悩まされましたが、短期間にそれを解決してきて、WEC参戦1年目にトップを争う性能を見せ、優勝さえしてしまいました。実戦のレースでは熱問題はほとんど起こらなかったと記憶しています。開発責任者(ポルシェLMP1プロジェクトリーダー)のフリンツ・エンジンガーは、「それでも熱はシビアな問題です」と、WEC挑戦2年目の今年も開発の手は緩めていません。

 ホンダのパワーユニットとポルシェのそれは出自が異なります。ホンダのパワーユニットはターボとMGU-H間の距離が短く、両者を繋ぐシャフトが短いと言われています。そのシャフトが高熱を帯び膨張するために、急に回転を止めたときにスタックする可能性もあります。解決するにはメルセデスのようにターボとMGU-H間距離を持たせ、シャフトを長くすることです。ただ、超高回転のシャフトの正確無比な作動が要求されるわけで、いずれにせよ非常に高い技術が要求されます。

 さて、ホンダはどう対処してくるでしょう? 基本的には限られた範囲での設計変更以外は規則で禁じられており、シーズン途中での大改良パワーユニットの投入は無理。そこをホンダがいかにクリアしてくるかが見ものです。それにはもちろんマクラーレンの協力も必要。さて、マクラーレン・ホンダがメルセデスAMGやフェラーリと争う日はいつ来るだろう?

赤井邦彦(あかいくにひこ):世界中を縦横無尽に飛び回り、F1やWECを中心に取材するジャーナリスト。F1関連を中心に、自動車業界や航空業界などに関する著書多数。Twitter(@akaikunihiko)やFacebookを活用した、歯に衣着せぬ(本人曰く「歯に衣着せる」)物言いにも注目。2013年3月より本連載『エフワン見聞録』を開始。月2回の更新予定である。

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