今年のF1はメルセデスAMGの逃げ切りレースが続いており、早くから開発を進め、自信たっぷりにパワーユニット(PU)のCG画像などを公表していたルノーが面目丸つぶれのシーズンになっている。開幕から5戦を消化して、メルセデスAMGの全勝。レッドブルのダニエル・リカルドの踏ん張りで何とかルノーPUユーザーも3位に入るなどしているが、劣勢は明らかでこれから残されたシーズンに向けていかに改良してくるかがキーポイントだ。
ところが噂では、このルノー製PUに関して来年以降は使用したくないというチームがポロポロ出て来ているという噂が耳に入ってきた。シーズンが始まって5戦も消化したのに改良の余地が認められない。この調子だとこれから先も思いやられる。こう考えるチームが出て来ても不思議ではない。そして、こう考えているチームの筆頭がレッドブルだという。
レッドブルの関係者に聞くと否定も肯定もなし。まさか今、肯定するわけにはいかないだろう。なぜなら、レッドブルは以前メルセデス・エンジンへの変更を断念した経緯があるかららだ。
2010年、レッドブルはメルセデス・エンジンへの変更を検討した。しかし、当時メルセデス・エンジンのワークス・チームであったマクラーレンがこれを拒否。レッドブルはそのことを根に持っている。ゆえに、レッドブルのアドバイザーであるヘルムート・マルコ博士は、「メルセデス・エンジンは欲しくない。彼らが我々に支給してくれるエンジンがメルセデスAMGチームと同じものとは限らない」と、現地の新聞に語っている。そんな状況でルノー製PUを失うと、レッドブルは走ることさえ出来なくなってしまう。今はルノーに対して穏便に、というところだろう。
しかし、レッドブルが新しい次のステップを探していることは確実だ。プライベートのレーシングチームが1自動車メーカーとあまりに長い蜜月時代を過ごすということはまずあり得ない。それが長くなればなるほど緊張は緩み、お互いに求める厳しさは姿を消す。競争の世界でそれは命取りだ。また、今回のようにチームか自動車メーカーかどちらかに相手に対する不信が生まれると、関係は長くは続かなくなる。ゆえに、レッドブルが今、ルノーとの関係の先を模索していても不思議ではない。そして、行き着く先がホンダでも不思議ではない。
実は、スペインGPではホンダの関係者とレッドブルの首脳陣の接触もあったようだ。ホンダに尋ねると、レッドブルは表敬訪問をしたいくつかのチームのひとつだという。2015年はマクラーレンへのエンジン独占供給が決まっているが、2016年から先は複数チームへのエンジン供給の可能性を残している。そのホンダには多くのチームからエンジン供給の打診が来ているというが、レッドブルもそのひとつなのかも知れない。
「これからF1の世界にお邪魔しようとしているわけですから、先輩のみなさんへの挨拶は欠かせません。レッドブルもその中のひとつです」とは、ホンダ関係者の言葉だ。
それにしても、2015年からのF1参入に関してはホンダは相当な覚悟を持って臨んでいるようだ。参戦期間に区切りはつけない、とも言う。このホンダの積極的な姿勢はどこから来るのだろう? やはりホンダはF1があってナンボの会社であることを、社員自身が自覚しているのではないかと思う。そして、F1に参加するからには勝たなければ意味がないことも分かっている。かつてマクラーレンとロータスへ、あるいはウイリアムズへエンジン供給をしてF1を席巻したホンダ。マクラーレンとレッドブルへのエンジン供給が決まれば、我々は再びホンダ栄光の時代を経験できるかも知れない。
赤井邦彦(あかいくにひこ):世界中を縦横無尽に飛び回り、F1やWECを中心に取材するジャーナリスト。F1関連を中心に、自動車業界や航空業界などに関する著書多数。Twitter(@akaikunihiko)やFacebookを活用した、歯に衣着せぬ(本人曰く「歯に衣着せる」)物言いにも注目。2013年3月より本連載『エフワン見聞録』を開始。月2回の更新予定である。
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