ドン・パノスが率いるデルタウイング・コンソーシウムが、来季のル・マン24時間のガレージ#56枠から、ニッサンZEOD RCで参戦を予定しているニッサンと、プロジェクトのイノベーション・ディレクターに就任したベン・ボウルビーに対し、訴訟を起こしているとアメリカの複数のメディアが伝えている。
これはアメリカのモータースポーツ情報サイト『RACER』や『AUTOWEEK』が伝えているもので、ジョージア州ジャクソン郡の高等法院に対しデルタウイング、チップ・ガナッシ、デルタウイングプロジェクト56、ジェネラルマネージャーのドン・パノスにより、ニッサンやボウルビー、ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル、モータースポーツディレクターのダレン・コックスらを相手取り、秘密保持と登録商標、企業秘密の悪用、契約違反などで損害賠償と、“デルタおよび翼形状の車両”の使用の差し止めを求める訴訟を起こしたという。この訴訟にはZEODのほか、東京モーターショーでニッサンが公開したコンセプトカー、ブレイドグライダーも含まれている。
ボウルビーはチップ・ガナッシのインディカーチームで働き、2012年からのインディカー新シャシーのコンペティションに、ガナッシの援助を得てデルタウイングプロジェクトを提出。ただ、このプランは実現せず、デルタウイングプロジェクトはスポーツカーレースに転じ、『デルタウイングプロジェクト56』という名の下、パノス、ガナッシ、ハイクロフト・レーシング、オール・アメリカン・レーサーズなどが協力し、2012年のル・マン24時間のガレージ#56枠に挑戦した。
このプロジェクトに対し、ニッサンはイギリスのRMLの協力を得て1.6リッター直噴ターボエンジンを供給。『ニッサン-デルタウイング』として12年のル・マンに参戦し、リタイアに終わったものの大きなインパクトを残した。
その後、2012年限りでニッサン-デルタウイングは活動を終え、デルタウイングはパノスにより、マツダエンジンベースのエランエンジンに換装され、アメリカン・ル・マン・シリーズに登場。今季末にはクーペバージョンも登場していた。
一方、ニッサンは6月、2014年に向け再びガレージ#56枠に参戦することを明らかにし、ボウルビーをダイレクター・オブ・モータースポーツ・イノベーションに起用。ゼロエミッション・レーシングカーであるニッサンZEOD RCを製作し、WEC世界耐久選手権第6戦富士でデモランを行った。
訴状によれば、「ボウルビー氏は2002年にガナッシ・レーシングと雇用契約を結び、ボウルビーはガナッシに対し、その発明内容をすぐに明かすことを要求された。デルタウイングプロジェクトは、ガナッシに知的所有権があった」としている。
「また、ガナッシとボウルビー氏の間には厳しい機密保持の条件があり、退社後もガナッシおよび系列会社が保持する機密情報の公開を禁止されていた。また、デルタウイングはデルタウイング車両に関連した知的所有権を保持している」
「2013年6月にボウルビー氏がニッサンの高水準なエンジニアリング部門で働き始めた後、ニッサンはZEODとして知られる新しいレーシングカーを発表した。ニッサンは、8ヶ月におよぶ開発を費やしたとしているが、ボウルビー氏がデルタウイングプロジェクト56の情報を不適当に使用し、非常に短期間で開発できたに過ぎない」
「また、デルタウイングとZEOD、またニッサン・ブレイドグライダーにはすべてボウルビー氏が関連しており、視覚上の類似点が確認される。ZEODはデルタウイングの機能的デザインと外観で、実質的に同一である」
「ボウルビー氏がデルタウイングプロジェクト56の知的財産権を用いてZEODを製作したことは実質的に確実で、ニッサンとボウルビー氏、コックスはZEODとブレイドグライダーにおいて、デルタウイングプロジェクト56に許諾される技術を実装した」
これらの内容により、デルタウイングおよびデルタウイングプロジェクト56はスポンサーの喪失やレース機会の減少などの損失を被ったとして提訴したとしている。これに対し北米日産はRACERに対し、「ニッサンZEOD RCはまったく新しいデザインであり、第三者の知的所有権を侵すプロジェクトを進行させようとはまったく考えていない」と回答している。