WEC世界耐久選手権の公式テスト前日に2015年型のTS040ハイブリッドを発表し、念願のル・マン24時間制覇とシリーズ連覇を目指して開幕前のポールリカールテストに臨んだトヨタ陣営。2日間で合計5セッションの総合ベストタイムでは、ポルシェ2台、アウディ2台に続く5〜6番手に終わったが、2週間後の開幕に向け、仕上がりは順調と言えるのだろうか?
「他車のラップタイムは、だいたい想定どおりです」。そう語るのは、トヨタ自動車の村田久武モータースポーツユニット開発部長だ。
「マシンのシステム上、ポルシェの一発が速いのは昨年からで、これはしょうがない。自分たちも『予選シミュレーションをやれば39秒台は出るよね』と話していました(トヨタのベストタイムは1号車の1分39秒9)」と、順当なリザルトであると説明する。
トヨタは初日、1号車がロードラッグ仕様、2号車がハイダウンフォース仕様で走行したが、2日目はそれを入れ替えている。
「今回はシルバーストンとスパとル・マンのエアロを、2日間で順番に試していました。しかもタイヤの種類もいくつもあり、さらに気温の変化に対してどのタイヤが適正か、タイヤがタレてきた時はどうか……と山ほどメニューがあったので、それを粛々とこなしていた感じです」と、2.7秒というベストタイムでのポルシェとの差については、それほど気にしていない様子だった。
2日目午後のセッション終盤には、LM-GTEプロクラスのフェラーリと交錯しそうになったマイク・コンウェイ駆る2号車が、縁石にマシン底面を打ちつけてストップ。マシンから煙を吐く姿も目撃されたが、「マシンが縁石の上に落ちてしまい、ちょうどフロントのモーターの部分を縁石が直撃する形になって壊れてしまった。この4年間で初めてのこと」(村田部長)と思わぬ災難に見舞われたほか、2日目の午前中にはマシンにオイル漏れが見つかった1号車が貴重な走行時間を失ってしまう場面もあった。
ハイダウンフォース仕様のマシンで2日目のセッションを終えた中嶋一貴は、「バランスとしては悪くないです。開幕に向けて、全部の要素をそろえてレースに臨めれば、ここまでの差にはならないだろうと思っています」と、開幕戦のシルバーストンでは、直線が極端に長いここポールリカールほどはポルシェに後れをとらないだろうとの見立てを示す。
「でも、フタを開けてみないと分からないですね。シルバーストンは去年もアウディが速かったので、サーキット的にはアウディ寄りかな。アウディは意外とここでも速かったし、今年はより差も少なくなって、より厳しい戦いになるかなとは思います」
今回の取材の中では、村田部長、一貴ともに、アウディのロングランの速さに対して脅威を感じている様子が印象的だった。ちなみにこのテストでは、アウディの2台、ポルシェの2台はともにハイダウンフォース仕様。昨シーズン当初はル・マン仕様に特化して開発していたポルシェも今年は方針を変えてきたうえ、8MJカテゴリーへと変更したこともあってか、ハイダウンフォース仕様ながらも338.6km/hというテスト期間中の最高速もマークしている。一貴の言うように、昨年よりも3メーカーの差が縮まり、接戦になる可能性は高そうだ。果たして、どのメーカーが幸先の良いスタートを切るのか。シルバーストンでの戦いに注目したい。
なお、『auto sport』4月10日発売号では、WECシーズンプレビュー特集として、ポールリカールテストに出場したLMP1マシン3車のディテール解説や、トヨタ1号車の3人のドライバーによる座談会などを掲載する予定だ。