6月6日、いよいよル・マン24時間レースの車検が開始された。例年、車検が行なわれていたのはレースウイークの月曜日と火曜日。しかし、今年はより多くの観客を楽しませようというアイデアなのか、日曜日と月曜日の2日間に日程が変更された。また、場所も昨年までは“ジャコバンの散歩道”というのが正式名称の公園内で行なわれていたのだが、今年その場所が工事中となっており、その真ん前にあるまさに“ジャコバン広場”が車検の会場となった。
この日、車検が始まったのは、午後2時半から。リュック・アルファン・アベンチュアのコルベットC6.Rを皮切りに、20台のマシンが順を追って会場に姿を現した。その中には、昨年悲願のル・マン制覇を果たしたワークスプジョー3台の姿も。会場を埋め尽くした観客からは、地元のヒーロー、セバスチャン・ブルデーに対して“セバスチャーン!!"という黄色い声が飛んでいた。また、LMS第2戦・スパ1000㎞の前、トレーニング中に脇腹を傷めたニコラ・ミナシアンも元気に登場。「完治にはちょっと時間がかかったけど、もう大丈夫」と、笑顔を見せた。
しかし、この日、車検で最も人気を集めたのは、プジョーのドライバーではなく、21年ぶりにル・マンに参戦するAFコルセのジャン・アレジ。チームメイトにジャンカルロ・フィジケラ、また同じチーム内のもう1台にはミカ・サロと、元F1ドライバーが3人も在籍するAFコルセだが、その中でもアレジの人気は群を抜いていた。
「89年、ここに来た時は僕はまだF1にも乗っていなかったし、ビギナーだった。だから、僕にとっては多かれ少なかれ今回が初めてという感じなんだ。自分がモータースポーツで多くの時を過ごした後、フェラーリとともに、とてもいい環境でここに戻ってこられたことには満足しているよ。ル・マンにもう一度出ようと思ったのは、去年のことだね。フィオラノでLMSに出るためのマシンをテストしたんだけど、ル・マンに出られるというのは、僕にとって“ギフト”みたいな感じだし、とてもハッピーだよ。ル・マンは本当に国際的なレースだし、フランス人だけでなく、世界中のドライバーにとって特別な物だと思うから。これまでF3やF3000で何度もル・マンに来たことはあるから、ル・マンのことはよく知っているんだよ。でも、24時間レースに関しては、ほとんど初めてだし、いつもとは雰囲気が違うよね。でも、僕はただここにいることが目的じゃなくて、勝ちたいと思っている。GT2クラスはとても激しい戦いになるだろうし、その中でいいパフォーマンスを発揮しないとね」と、レースに向けての意欲を語ったアレジ。そのやり取りの中では、日本語で『ガンバリマ〜ス』と語ってくれた。
このAFコルセに負けず劣らず場内で大人気だったのは、スイスのマテック・レーシングから参戦する女性トリオ、ナターシャ・ガシュナン、ラヘル・フレイ、シンディ・アレマン。ファンの熱い視線を集めていただけでなく、男性ドライバー陣も彼女たちをチラ見したり、積極的に話しかけていた。
その後は、アストンマーチンのワークスチームが登場し、クローズドカーで初めてル・マンに参戦するエイドリアン・フェルナンデスが会場入り。「初めてこのクルマを運転した時は、視界が悪くてビックリしたよ。最初の何周かは“オー・マイ・ゴッド”という感じだった。でも、すぐに慣れることができたし、問題ないよ」と、その印象を語った。また、フェルナンデスは、「ディーゼルカーに対抗できるとは思っていないし、目標としているのはガソリンエンジン車のトップだね」とコメント。「いい結果を出すために、とにかくここでは落ち着くことが大切だよね。“ミスしないようしなくちゃいけない”とか、そういうことを考えるのではなくて、リラックスしないと。クルマに関しては、ここまで3回レースに出ているけど、耐久テストまではできていない。ただ、ル・マンに向けては、空力の開発を進めてきているし、ポール・リカールでは、新しい空力パッケージでとてもいいセットアップが見つかっているから、レースが楽しみだよ」と、いつも通り前向きな口調で語った。
さらに、アストンマーチンの次には、ALMSで活躍してきたハイクロフト・レーシングのHPD ARX.01が登場。このマシンでは、昨年プジョーで総合優勝を果たしているデイビッド・ブラバムがレギュラードライバーを務めているが、今回のル・マンでは、そのチームメイトとしてアウディで総合優勝を経験しているマルコ・ベルナーが加入。昨年はライバルだった2人のベテランがタッグを組んで、LMP2クラスを目指すことになる。
そして、明日、6月7日(月)には、日本期待のマシン&ドライバーが続々ジャコバンに現れる予定。まずこの日最初に車検に臨むのは、JLOCが新しく仕立てたランボルギーニ・ムルシェラゴ。ル・マン入りする前にスパでテストを行い、好結果を得ているというこのマシンが、今年はどんな走りを見せるのか。ヨーロッパでも根強い人気を持っているだけに、彼らのレースには注目だ。さらに、日本人ドライバーとしては野田英樹が、明日の午後から車検に臨む。また、ロイック・デュバルのプジョー908やブノワ・トレルイエ&アンドレ・ロッテラーのアウディR15+も、明日登場。ファンからの歓声を受けるのは間違いない。