今週末に開催されるフォーミュラEの2015-2016シーズン第3戦プンタ・デル・エステePrix。その開催を前に、第2戦プトラジャヤePrixのテレビ中継で解説を務めた、レーシングカーデザイナーの由良拓也氏が、第2戦の振り返り、そして第3戦の見所について語った。

■プトラジャヤePrixで多発したトラブルについて
　第2戦はトラブルが多かったですね。電気系の中でも特にコンピューターやバッテリーは熱を発するものなので、気温が34度と高温になるときつくなるんです。限界を越えてしまい、色々なエラーが出たということが想像できます。基本的にコンピューター系機器の復旧方法は、電源を強制的に終了させてもう一度立ち上げるということ。そうすると、固まっていたものが意外と動いたりするじゃないですか。初期的なトラブルは再起動が最大のメンテナンスになるので、それを皆がやっていましたね。

■優勝したルーカス・ディ・グラッシについて
（セバスチャン）ブエミとポール争いをしているときに、ブエミよりも良いタイムで来ていながら、フィニッシュライン手間でウォールにヒットしてタイムを失い、6番手に落ちたんです。でも、ちゃんと走ったら、ディ・グラッシがポールだなと思うぐらい速かったんですね。だから、6番手（からのスタート）でも、レースではマシントラブルとかクラッシュに巻き込まれず、うまく進めることができたので、あの優勝は順当なところですね。

■2位にはサム・バードが入りました。
　プトラジャヤに縁があるというか、彼は持っていますね。昨年もぶっちぎりましたから。そういう意味で相性が良かったことと、コンスタントにトラブルなく走れた。さらに上位以下の大混戦に巻き込まれず、気が付いたら2位……みたいな巧みなレースを見せてくれました。

■コースには枯葉などが落ちていました
　実は枯れ葉は砂よりも怖い。というのも、枯れ葉は平べったいので、ラジエーターの中に入ってしまうと、張り付いて風が流れなくなり、（様々なコンポーネントの冷却ができずに）温度が上がってしまうんです。それでバッテリー温度を上げてしまったチームもあると思います。

■ルノー・e.ダムスについて
　トップに立っていると、コース上のゴミなどを避けて走れますよね。競り合っているとコースを選べませんが、トップは（コースの状況を把握して）冷静に走れる。そういう意味ではコントロール出来ているはずなのに、トラブルに見舞われましたよね。本命チームがそのまま優勝まで行くと思っていたので、びっくりしました。
　昨年は完走率が高く、完成されているなという印象でした。今年はパワートレインが自由化された。そうやっていじり始めると、他より速く走るためにギリギリのところまで（攻めて）いきますよね。そうすると、こんなにトラブルが多くなるのかなと思いましたね。昨年のマレーシアでは、こんなにはトラブルは出なかった。そう考えると、EVをギリギリまで持っていくと、温度という壁にぶつかるということだと思います。

■チーム・アグリのアントニオ・フェリックス・ダ・コスタが、昨年と同じパワートレインのマシンで6位に入った
　彼はフリー走行も速かったし、予選も上位にいて、レースも前半は2位を走っていました。そういう意味では暑い中で、昨年の完成されたパワートレインを使うことがアドバンテージになったのかな、と思います。他のチームが熱で苦しんでいる中、彼は昨年のデータを参考に走れるわけですから。そういう意味でドライバーはドライビングに集中できた、ということもあるし、ダ・コスタも慣れていたので良いレースが出来たのでしょう。

■次回（今週末）はウルグアイのプンタ・デル・エステ
　今回のマレーシアは34〜5度の中でした。プンタ・デル・エステが昨年同様にマレーシアよりも10度低いとなると、熱問題が発生する気温よりは下のはず。だから、良いレースができるんじゃないかと思います。
　プトラジャヤが気温的に一番のピークだとしたら、これからは暑い所もあるとはいえ楽になるはずです。そうなれば、レースはやりやすいのではないでしょうか。さらに強いチームは今回のことで学習したはずですから、次は（対策を講じて）備えてくるでしょう。そのほかのチームも今回のレースみたいに「一矢を報いよう、なんとか上位に食い込むぞ」と挑んでくれば、面白いレースが見られると思います。

■初年度チャンピオンのネルソン・ピケJr.不調の原因は？
　今年からパワートレインが自由になったことで、みんながそれぞれの思い入れで“一番”というマシンを開発してきました。その中でツインモーターを選んだネクストEV TCRですが、単純に走りを見ている限り、パワーは使えているが、重量バランスに苦しんでいるようです。後ろ側が重くなっている印象を受けるんですよね。マシンがコントローラブルじゃない。ピケJr.のようなドライビングの名手をもってしても、乗りにくそうにしています。車が進入で向きを変え、加速に移る動作がスムーズじゃないんです。あれではタイムは出ない。有り余るパワーを速さに繋げるには、時間が必要かなと思います。

FIAフォーミュラE選手権　第3戦プンタ・デル・エステePrix
2015年12月19日（土）
「フリー走行」よる10:30〜（CSテレ朝チャンネル2）
「予選」よる11:50〜（CSテレ朝チャンネル2）
「決勝」深夜3:50〜（CSテレ朝チャンネル2）
「決勝ハイライト」12月22日（火）よる11:00〜（BS朝日）
　　　　　　　　　12月25日（金）深夜3:20〜（テレビ朝日）