レースを愛してやまないファンの方々へ
autosport web Premiumが登場。

詳細を見る

ル・マン/WEC ニュース

投稿日: 2016.04.13 16:59
更新日: 2016.04.13 17:02

アウディ、WEC開幕戦に新型R18を2台投入。史上もっともパワフルかつ効率に優れたマシン

レースを愛してやまないファンの方々へ
autosport web Premiumが登場。

詳細を見る


ル・マン/WEC | アウディ、WEC開幕戦に新型R18を2台投入。史上もっともパワフルかつ効率に優れたマシン

シャシーに採用された創造的工夫

この新しいコンセプトにより、他の多くの部分にも、革新的な機能が採用されることになりました。サスペンションもその一例です。モノコックが新しくなったことで、フロントサスペンションのマウント位置も大きく変更されています。ハイブリッドシステムのドライブシャフト位置とより適合するように、マウント位置が再設定されました。サスペンション自体の仕組みも、大幅に変更されました。ホイールを位置決めするウィッシュボーンの設計が新しくなっています。フロントサスペンションの上下動を制御するスプリング/ダンパーユニットは、プッシュロッドを介して作動します。リヤサスペンションの働きも、さらなる最適化が図られています。スプリング/ダンパーユニットは、先代モデル同様、プルロッドを使用して制御されます。シャシーのリンクドサスペンションシステム(LSS)のバランサーにより、すべての速度域で、最適なバランスが得られるようになっています。

トランスミッションもまた、今回設計が新しくなっています。アウディが行なったシミュレーションにより、エンジンを最適化すれば、従来型の7速の代わりに6速のユニットを用いても、シフト時にエンジン回転数の変動が少なく、好ましいギア比が得られることが判明しました。6速ユニットに切り替えたことで、トランスミッションの重量はさらに削減されています。車両の構造面でも軽量化は徹底して追求されており、その一方で、シャシーの捩じり剛性は高いレベルに維持されています。

さらに、Audi R18の各システムのアクチュエーターの設計を変更したことでも重量の削減が実現しています。先代モデルでは、電気式のアクチュエーターが、ブレーキ、トランスミッション、エンジンシステムなどで使われていましたが、新しいR18は、それらを新開発した一括制御のハイプレッシャー油圧制御タイプに切り替えています。レギュレーションでは、LMP1ハイブリッドレースカーの最低重量は875kgと定められています。従来よりもパワフルで必然的に重いハイブリッドシステムを搭載しながらも、R18の重量はその制限値に収まっています。

ハイブリッドドライブへの新しいアプローチ

エネルギー回生システムを用いた車両で初めてルマン24レースを制覇した自動車メーカーであり、ハイブリッドドライブのパイオニアであるアウディは、2012〜2015年のシーズンに、フライホイールを用いたエネルギー貯蔵システムを使ってきました。しかし今や、次世代のシステムに移行する機は熟しています。今後はバッテリーが、エネルギー貯蔵の役割を果たすことになるでしょう。従来の動電学的メカニズムは、電気化学的な貯蔵システムに取って代われることになります。「フライホイール型のアキュムレーターは、低いエネルギークラスでは、有効であることが証明されました」とAudi Sportで電気、エレクトロニクス、エネルギーシステムの開発を統括するトーマス ラウデンバッハは説明しています。「しかしながら、我々は今後、より大きなエネルギーを扱っていかなければなりません。必然的に新たなテクノロジーを求めることになりました。」従来型のフライホイール型アキュムレーターは、高いパワー密度を保証してくれましたが、アウディは、ハイブリッドのエネルギークラスを上げたために、今後はエネルギー密度に関しても、高いレベルが要求されます。2016年シーズンから、エネルギーの総量は50%増えて6メガジュールになります。2014年シーズンのモデルと比べると、わずか2年間で、回生エネルギーの総量は3倍にもなっています。

そこで今回初めてアウディは、ハイブリッドドライブシステムのためのエネルギー貯蔵システムとして、リチウムイオンタイプのアキュムレーター(電池)を採用することにしました。2009年以来、アウディのLMPレースカーのバッテリーは、すでにリチウムイオンタイプになっていました。市販モデルのものをベースにしたこのハイブリッド用エネルギー貯蔵システムは、先進的で高出力な化学的セルを用い、数多くのセルが一体となってひとつのシステムを形成しています。このシステムは、モノコックの強度の高い安全な構造のなかに収められており、個々にカプセル化されて外部から遮断されています。また、電気的および電子的安全システムにより、様々なパラメーターで、個々のバッテリーセルから全体の高圧システムまで常時監視されており、必要に応じて介入を受ける仕組みになっています。車両がクラッシュした場合などは、当然システム停止の対象となります。

システムに蓄えられるエネルギーは、フロントアクスルのMGU(モータージェネレーターユニット)によって生み出される電力です。コーナーの手前でドライバーがブレーキを踏んだときに、前輪の回転運動を電力に変換し、それをいったんリチウムイオンの貯蔵システムに蓄えます。それによりAudi R18は、通常のモデルでは失われていたエネルギーを利用できることになります。コーナーの出口でドライバーがクルマを加速させると、電気が反対方向に流れて、MGUを駆動させます。それにより、R18のフロントアクスルは、クルマの加速をサポートする働きをします。エンジンの冷却システムとは別体の低温冷却回路が、バッテリーセルとMGU、およびパワーエレクトロニクスの冷却を行っています。

2016年シーズン以降、従来のエネルギークラスに加えて、コース毎に独自の出力制限が課されることになりました。MGUは、より大きなエネルギー回生を行うこともできますが、今年のルマンではエネルギーの最大供給量が300kW(408hp)に制限されています。アウディは、可能な限り多くのエネルギーを回収するために、出力が350kW(476hp)以上に達するようAudi R18用のMGUを設計しました。例えどんなに高速であっても、LMP1レースカーがブレーキングを続ける時間はせいぜい3秒から5秒であり、システムの出力を高く設定しておけば、それだけ効率的にエネルギーを回生できます。ルマンにおいては、その後の加速プロセスにおいて、ハイブリッドシステムは最大でも300kWのパワーしか供給できませんが、そのぶん、長時間にわたって、パワーブーストを利用できることになります。ちなみに、このパワー制限は、FIA WECの他のレースでは適用されません。

6メガジュールクラスに切り替えたことで、アウディはこれまででもっともパワフルなMGUをAudi R18に搭載することができました。2012年に最初に搭載した電動システムのパワーは約150kW(204hp)でしたので、今やその2倍のレベルになったことになります。コンセプト面では、新しいMGUは従来型のものと類似しています。その一方で、パワーエレクトロニクス、スターター、ローターは、完全に新開発されています。新世代のハイブリッドドライブシステムは、高い出力とトルクを発揮するため、それをフロントアクスルに伝える各コンポーネントの負荷も、そのぶん高くなっています。大きなトルクを最小のロスで伝えるために、フロントアクスルにはリミッティドスリップディファレンシャルが採用されています。


関連のニュース