乗ってすぐに速いドライバーは感覚派といわれ、パロウもどちらかといえばそのようだが、「勤勉で努力も怠らない」と理論派の加藤エンジニアはいう。今回の予選は事前に雨が予想され、その対策としてパロウと加藤エンジニアは過去のレースでのオンボード映像を入念に研究。
2018年のニック・キャシディと、2016年のストフェル・バンドーンのポール獲得映像を見て、ライン取りやブレーキングポイント、そしてセッティングの参考にしたという。
「ニック(・キャシディ)とストフェル(・バンドーン)の走行ラインはまったく違ったけど、予選のときの路面コンディションはニックのときに近かったので、走る5分前にパソコンで彼のオンボード映像を見て参考にしたんだ」とパロウ。
映像で人の運転を見たからといって、簡単にコピーできるものではないはずだが、パロウはそれをすぐに取り入れ、見事ポールポジションを獲得した。そして、予選以上に雨量が多かった決勝では、刻々と変化する路面コンディションに応じて、ライン取りやドライビングをフレキシブルに変えていったという。
しかし、スタートダッシュを決め首位を快走していたパロウに対し、チームは繰り返し燃費重視のコースティング走行を指示した。
「朝のフリー走行でコースティングを練習し、セーフティカースタートならタイヤも燃費も大丈夫だと分かりました。でも、決勝では最初コースティングを忘れていたようで、直線のスピードラップが速すぎるのでおかしいと。そこで、改めてコースティングを指示しましたが、彼はラップを落とさなくても速く走れた。とても上手だったと思います」
決勝レースは途中で周回数ではなく、時間制のタイムレースになることが決まり、燃費の面ではかなり楽になった。しかしチームはそれをあえてパロウには教えず、最終ラップでようやくその事実を伝えた。
「早めに教えると、燃費を気にせず頑張って走ってしまうと思ったので。案の定、教えた直後に(1コーナーで)飛び出しましたから(笑)」と加藤エンジニア。
パロウも「あれは正しい判断だったと思うよ」と、笑っていた。最終周以前にも何度かコースを外れ、若さを感じさせる部分もあった。しかし、総じてラップタイムは安定しており、ただならぬ才能とさらなる成長を確信させるレース内容だった。
「タイトルを考えるにはまだ早過ぎる」というパロウだが、9年ぶりの勝利を経験したナカジマレーシングの面々は、シリーズ制覇も決して叶わぬ夢ではないと、思い始めているに違いない。
