GT300の勢力図を読み解くうえで重要となるのが、3つの車両規定が持つ特性の違いだ。日本独自の開発型であるGTA-GT300、共通シャシーをベースにボディを架装するGT300マザーシャシー、そしてSRO(ステファン・ラテル・オーガニゼーション)によって生まれた世界普及規格のFIA GT3。それぞれの成り立ちや開発思想は大きく異なり、その差がレース展開やチームの戦い方に直結している。
●GT300参戦マシンベースと車両規格(全29台)
| 車両規格 | ベース車両 | メーカー国籍 | 参戦台数(2026) |
|---|---|---|---|
| GTA-GT300 | トヨタGR86 | 日本 | 2 |
| GTA-GT300 | トヨタGRスープラ | 日本 | 2 |
| GTA-GT300 | レクサスLC500 | 日本 | 2 |
| GTA-GT300 | スバルBRZ | 日本 | 1 |
| GTA-GT300 | ニッサン・フェアレディZ | 日本 | 2 |
| GT300マザーシャシー | トヨタ86(外装) | 日本 | 1 |
| FIA GT3 | ニッサンGT-Rニスモ | 日本 | 4 |
| FIA GT3 | レクサスRC F | 日本 | 2 |
| FIA GT3 | メルセデスベンツAMG | ドイツ | 5 |
| FIA GT3 | BMW M4 | ドイツ | 1 |
| FIA GT3 | ポルシェ911 | ドイツ | 1 |
| FIA GT3 | フェラーリ296 | イタリア | 3 |
| FIA GT3 | ランボルギーニ・ウラカン | イタリア | 2 |
| FIA GT3 | アストンマーティン・ヴァンテージ | イギリス | 1 |
GTA-GT300は空力や冷却、エンジンレイアウトなどに自由度があり、チームの開発技術がそのまま競争力に反映される車両規格だ。街中でも多く見かけるトヨタGR86やスバルBRZ、ニッサン・フェアレディZ、トヨタGRスープラ、レクサスLC500といった市販スポーツカーをベースに大規模な改造が施され、レース専用のGTマシンへと生まれ変わらせている。
シーズンを重ねるごとに各車の熟成が進む一方、2026年は2021年王者のスバルが3リッター水平対向6気筒ツインターボエンジンを投入し、GAINERも2年間の熟成を踏まえた新製GAINER TANAX Zを投入するなど新要素も加わり、刷新されたパッケージが上位争いに食い込む可能性も十分にある。


GT300マザーシャシーは、共通シャシーに独自ボディを架装する方式で、軽量の車両特性を武器にコーナリング性能に優れる。2026年はマッハ車検 エアバスター MC86 マッハ号が唯一の参戦となるが、昨季は熟成が進んだパッケージで勝利を挙げ、存在感を大きく示した。
今季も勢いそのままに開幕へ向かうはずだったが、富士での公式テスト中にクラッシュを喫し、チームは急ピッチで修復作業に追われることとなっている。昨季の好調をモチベーションに、どこまで立て直して開幕戦に臨めるかが注目される。
FIA GT3はメーカーが完成車両として供給する世界基準のパッケージで、ABS(アンチブレーキロックシステム)やトラクションコントロールといった電子制御デバイスを備え、安定したブレーキング性能や加速力が強みとなる。開発は原則として認められないため、マシン戦闘力の差はセットアップの方向性やパーツ選択、組み上げ精度といった細部の積み重ねに現れる。また、世界基準のBoPに加えて日本独自のローカルBoPが適用されるため、サーキットごとに変動する性能調整への対応力が結果を左右するポイントだ。
2026年は、このGT3勢にEVOモデルの投入が相次ぐシーズンでもある。CARGUY MKS RACINGやPONOS RACINGはフェラーリ296 GT3 EVOを導入。富士スピードウェイや鈴鹿サーキットで勝利を挙げるなど、従来型296 GT3が高速サーキットで強さを見せてきただけに、改良型となるEVOモデルはさらなる武器に期待が集まっている形だ。空力効率や旋回性能の向上が期待され、2026年のGT3勢の中でも存在感を放つ可能性が高い。
ほかにもseven x seven Racingはポルシェ911 GT3R EVOを投入。2026年登場の改良モデルで、こちらも空力やサスペンション、ブレーキ性能に至るまで運動性能に関わるあらゆる箇所にアップデートが入っており、総合的な戦闘力向上が見込まれている。2025年は、チームが始動から調子を上げてきたシーズン後半からは毎戦のように上位を競い、第7戦オートポリスでは初優勝も達成。2026年は本格的にシリーズタイトルへターゲットを移してくるはずだ。
さらに、PACIFIC RACING TEAMはBMW M4 GT3 EVOを投入する。スマートフォンアプリ発の人気コンテンツ『ウマ娘』とのコラボで話題を集めたPACIFIC RACING TEAMが車両をメルセデスAMGから変更したため、2024年以来となるBMW M4の復活参戦が実現した。長いホイールベースを持つM4 GT3は高速域での安定性に優れ、2025年のEVO登場によってブレーキ性能やタイヤの使い方にも改善が施されている。まだ勝利を挙げたことのないPACIFICにとって、今季のM4 GT3 EVOは大きな飛躍を狙える期待の新兵器となるかもしれない。


こうした多岐にわたる車両が参戦するGT300は車両規格ごとの性能差が大きいため、BoP(性能調整)がレースの均衡を保つ鍵となる。調整項目は車両重量、吸気リストリクター径やターボブースト圧、給油リストリクターや最低地上高、最小ウイング角度など多岐にわたり、わずかな設定差がラップタイムに直結し、速さの均衡を保つ取り組みがタイム差を縮小し、競争をより一層厳しいものとしている。
そして2026年は、こうした車両特性の違いに加えてタイヤ戦争の最終年という特別なシーズンでもある。耐久性を武器とするブリヂストン、温かい時期のスピードが優勢なヨコハマ、熱の入りや富士でのスピードに実績のあるダンロップ、雨のレースでは抜群の速さを生み出すミシュランなど、これまでの戦力分布がどう変化するのか。来季からはワンメイク化が決定しているため、今年は各メーカーの最後の開発投入にも注目だ。
GT3の安定した総合力、GTA-GT300の開発による進化、マザーシャシーの軽快さが複雑に絡み合うことで、今季も毎戦ごとに勢力図が変わる可能性がある。4つのタイヤメーカーが集う最後の年となる2026年は、GT300にとって特別なシーズン。誰が勝つのか、どの車両が抜け出すのか、最後の最後まで読めない白熱の戦いが繰り広げられるはずだ。






