「バトンが進めたセットで山本が走ったら、ポンとあの2番手タイムが出た。JBのセットで乗れると山本も安心しただろうし、チームもクルマが変な方向に行っていないことも分かったし、何よりJBが安心したと思う」と伊与木エンジニア。
結果的にバトンに初日を任せたのはポジティブな方向に進んだが、当然、大きなリスクもあった。何よりスーパーGT、ハコ車の経験がほとんどないバトンに任せるのを不安に思わざるを得ないのが、チームメイトの山本尚貴だろう。
世界的にも特殊なカテゴリーであるスーパーGTの開幕直前のセットアップ、タイヤ選択を決める大事なテストの半分をルーキーのバトンに任せるという選択は、同じクルマをシェアする立場としては、リスクや不安を感じるのは当然だ。
「僕の立場としては、それについてはなかなかコメントしづらいですね(苦笑)」と話す山本。
「テストに来て、1日まったく乗らないなんてことは初めてだと思います。1台のクルマをふたりで走らせるのがスーパーGTですし、当然、セットアップの好みはそれぞれあるので、片方に任せたら、そちらの好みにどんどん偏っていく。だから、信じていくしかないし、僕としては何があってもその状態で乗らざるを得ない。どんな状況でも自分は上手く走れるという自信と勇気の必要な決断でした」と続ける山本。
「それでもGTはふたりで戦うものなので、JBがまだ充分なフィーリングを得られていないところを見ると、彼に頑張って慣れてもらわなきゃいけない部分もある。本音をいうと、このタイミングで任せる怖さはありました」と山本は今回のテストを振り返る。
それでもチームメイト、そしてチーム、そしてホンダ側にメニューを認めさせることができたのも、バトンの実力と人間性か。伊与木エンジニアは、そのバトンのキャラクターを以下のように話す。
「JBはああ見えてかなりシャイなところがあって、自分から強く言うタイプではないし、そういうところでコンサバなところに入りかけていたので、今回のテストでお互いの意思疎通というところですごく進歩したと思います。まあ、まだGT300が絡んだ時のタイムとか課題はありますが、それはコース上で体感して対応してもらうしかない」
「外見からはファンサービスもいいし、ジェントルマン、スターのような雰囲気ですが、乗っているときはとにかく真面目ですよ。すごい真面目。今回はJBから提案してきたというのもあるかもしれないですけど、アバウトで済ませるところがなくて、全部、きっちりと評価する。クルマを降りれば、すごくフランクなパーソナリティになるけど、仕事に関してはとにかく真面目ですね。今はF1やフォーミュラの感覚をすべて入れ替えて、スーパーGTのマシン、レースを吸収しようとしています」
一方のバトンは、ファンがつねにRAYBRIGのガレージを取り囲み、厳戒態勢で取材ができない状況ながら、セッション合間の場内放送のインタビューでは「ロングラン、ショートランといろいろなメニューをこなすことができた。まだまだ本番のレースに向けてやらなきゃいけないことは多いけど、予選から速さを見せられるようにしたいね」とコメント。