一方、“勝つしかなかった”メンバーの戦いはどうか。前日、嵯峨宏紀が担当した予選Q1では、ギリギリで通過する形になった31号車TOYOTA PRIUS apr GTは、決勝スタートタイヤ抽選が『QA』だった。つまり嵯峨が履いていたタイヤだが、このタイヤは、気温が低かった場合はうまく発動しないタイヤだった。そのための嵯峨のQ1だったのだ。
しかしこの決勝日、気温は上がった。「暖かくなって良かった」とaprの金曽裕人監督は言う。レース序盤、平手晃平が圧巻の走りでついにトップまで浮上し、嵯峨にバトンを繋ぐ。もちろん作戦は、当初から想定していた無交換だ。QAタイヤは、その可能性をこめたタイヤだった。
作戦は見事的中し、平手からステアリングを受け取った嵯峨はトップに立っていたLEON CVSTOS AMGを追ったが、ここでまさかのピックアップが生じてしまう。そのためトップを追いきれなかったのだ。
「それで全然ペースが上がらなかった。ただ、ピックアップがついてなくても、(LEONのドライバーは)蒲生(尚弥)だし、そう簡単には抜けなかったと思うけど」と金曽監督。
ただ、金曽監督は「お客さんもそう思ったと思うけど、スーパーGTは面白いよね」と振り返った。
「自分が今、タイトルが獲れなくてもあっけらかんとしているのは、面白かったから。コイツ(プリウスGT)を最後に表彰台に乗せられたしね。もちろんチャンピオン獲れていたら良かったけど」と、レースそのものを楽しんでいたようだ。
また、タイヤ二輪交換を行い、3位となったのは昨年王者のグッドスマイル 初音ミク AMG。同様に勝つしか連覇の可能性はなかったが、届かなかった。
「振り返ってみると、流れがあると思うんですよね」というのは、河野高男エンジニア。
「仮にLEONの前に出られていたらウチがチャンピオンだったとも思うし。でもそこは“流れ”だから」
「レース戦略を含めて、オートポリス以外はちゃんとやれていたと思う。不運ももちろんあったし、タラレバ言ったらたくさんある。でもその時々にやれることは全部やっていた。メルセデスのチームがチャンピオン獲ってくれたことは嬉しいけど、やっぱりちょっと悔しい(笑)」
「LEONは昨年悔しかったわけで、今年はパーフェクトな仕事をしたから」と河野エンジニアはライバルを讃えつつも、王座奪還に向けて闘志をみせる。
「同じクルマで負けてしまった分、来季に向けてチャンピオンを獲れるようにいろいろ考えていかなければいけませんね」