1996年からJGTCに参戦したホンダは、TEAM KUNIMITSUがル・マン24時間レースのGT2クラス仕様をベースとするADVAN BP NSX(高橋国光/土屋圭市)で参戦を開始。年々パフォーマンスを上げ、2000年にカストロール無限NSX(道上龍)がホンダ初のチャンピオンを獲得した。
その後は2007年(ARTA NSX)、2010年(ウイダー HSV-010)、2018年(RAYBRIG NSX-GT)にもシリーズチャンピオンの座に輝いている。
ホンダの車両&エンジン開発は四輪モータスポーツの技術開発を行う研究所、HRD Sakura(ホンダ・レーシングディベロップメント/栃木県さくら市)が担う。メディアでは通称“Sakura”“栃木研究所”と表現されることが多い。
このHRD SakuraではF1のパワーユニット開発も行われており、スーパーGTの開発部隊とF1の開発部隊は同フロアに在籍。情報交換やコミュニケーションが活発に行われているとのことで、F1で培われた技術がスーパーGT車両にも反映されやすい環境が作られている。
ニッサンはニスモ、トヨタはTRDと子会社が担当しているのに比べ、ホンダは自動車メーカーの研究部門がモータースポーツ車両の開発を担っていることもあり、ハード面での開発ではライバルメーカーより一歩進んでいると言われ。実際、JGTC、スーパーGTを振り返っての歴史的背景もある。
ただ、ホンダとしてはその反面、ハード面のマネジメント中心となってしまい、ソフト面、チームの運営面で課題が多いという側面が挙げられる。
ドライバーのマネジメントにしても、ホンダは成績上位者はFIA-F2、そしてF1へのステップアップも狙えることでもともとドライバー間の競争意識が高く、スーパーGTはふたり一組、そしてメーカーとして戦うカテゴリーでもあり、その競争意識がアクシデントにつながるケースが多い。
チーム同士の競争意識も高く、それ自体はレースではポジティブに捉えられるが、一方、開発面ではチーム間の情報共有が他メーカーに比べて盛んではなく、縦割り運営でチームごとに戦っている印象が強い。過去のスーパーGTのレースでホンダに同士討ちがもっとも多いのも、この運営背景とは無縁ではないだろう。
ホンダのGT500のリザルトには特長であるHRD Sakuraの技術力を活かして、チーム間、ドライバー間のソフト面でのマネジメントトップがいかにコントロールできるかという要素の影響が大きく、結果的に2~3年ごとに人事異動で変わる、運営側のリーダー次第でリザルトが上下するというシーズンを繰り返す傾向になっている。
2020年シーズンに関しては昨年に引き続きホンダNSX-GTを投入するが、マシンには大きな改革が行われた。それはエンジン搭載位置で、昨年までは市販車と同じコクピット後方にエンジンを搭載するMR(ミッドシップエンジン・リヤドライブ)レイアウトだったのに対し、2020年からはコクピット前方にエンジンを積むFR(フロントエンジン・リヤドライブ)レイアウトに切り替えられたのだ。
これはクラス1規定に準拠するように行われた変更で、FRレイアウトのNSXがシリーズを戦うのは史上初のこと。レーシングカーのなかでもっとも重い要素であるエンジンの位置が変わることで当然マシンの操縦性やセットアップにも影響が出るほか、冷却系などの見直しも必要となる。外観こそ昨年と同じNSXだが、中身はまったくの新車と言える状況だ。
それにも関わらず、3月に岡山国際サーキットで行われた公式テストでは大きなトラブルもなく好調なペースを維持。オフシーズンの走りを見る限り、開発は順調に進んでおり、2年ぶりのタイトル獲得にも期待がかかる。
次回は、これら3チームとドライバーの契約事情について深堀りしていく。