そのニッサン同様「今回は変更なし」と、エンジン1基目継続の判断を下したのはホンダのGTプロジェクトを率いる佐伯昌浩LPL(ラージ・プロジェクト・リーダー)だ。
8月初旬開催の第4戦時点で「前半のエンジンがマイレージ的には全然余裕なので……」と語っていた佐伯LPLだが、それと同時に「エンジンの仕上がり具合次第です。それによって次の鈴鹿にするのか、その次の(第6戦)SUGOにするかを決めようと思っています」との言葉どおり、この鈴鹿への新スペック投入を見合わせた。
燃料流量リストリクターを採用する現在のNRE(ニッポン・レース・エンジン)では、限られた燃料でいかにパワーを絞り出すか。いわゆる熱効率の部分の勝負が続いている。その点、2021年後半戦で高い燃焼圧を実現しながら「ちょっとやり過ぎた面」もあったエンジンの「その先」を目指すことに。
主要部品はほぼ揃いつつあるものの、現在もシミュレーションでの最終仕上げが続けられており「最後まで悪あがきをしよう」と、次のSUGOか、場合によってはオートポリスでの換装も考慮しているという。
そのライバル2社に対し、前回の富士終了時点で「2基目投入」を明言していたのがトヨタ陣営。TCD/TRDのエンジン開発責任者兼全体統括を務める佐々木孝博氏は、トラブルで先行搭載していた38号車を除く「全車に2基目を載せました」と明かす。
「セルモさんは前戦、ぺダルのセンサートラブルで完走できませんでしたが、そこで(Ver.1.5として)実車による、レースでの適合ができましたので、その部分も合わせてさらにレベルアップして持ち込める準備はして来ました」と続けた佐々木氏。
「どこまで行ってもドラビリ(ドライバビリティ)で、やはり燃焼を良くしていくことしか……つまり燃焼改善です。それがキーワードになっていますので、その部分に取り組んでいます。微々たるものでも……ほんの0.数%でも良くなるものは『かき集めてでも投入する』というかたちで、この2基目も微々たるものですが、まだ大きな部分は間に合っていないですし、このまま調子が良ければ来年に持ち越してしまうかもしれないですが、日々努力はしている状況です」
現在、燃費の話題はアンチラグ使用量の多寡が中心となるが、燃焼を改善すれば熱効率の面でも燃費は上がっていく。車両の“走行燃費”だけでなく、エンジン単体でも性能向上が燃費に還ってくる。その点、シーズン真ん中。この夏場での2基目投入は「性能優先」の選択と言えそうだ。
「そうですね。ライフもそうですけど、性能もそうです。富士での燃費も全車、全メーカーのピット給油時間などを画像解析もしましたが、最速の車両が給油時間トータルで50秒くらいとすると、ギャップは2秒。スープラで見ても、当然ドライバーもリフトを行ったり努力していますし、チームも努力して『ベストでトントン』というところです」
明日午前の公式練習を経て予選へと挑む各社(車)だが、現在のGT500クラスはわずか0.1秒差でポジションが大きく変動し、Q2進出カットラインで涙を飲む緊迫の勝負が続いている。それだけに、タイヤとドライビング、そしてライバルとの間合いやトラフィックまでを含め、すべてをうまく運んだチームが前方グリッドを獲得し、わずかなミスを犯せばたちまちQ1敗退の運命が待ち受ける。
「予選は必ずトヨタさんが速い。本戦と予選との差があまりにも大きい。何が起きているのか……というくらい、相当に余力のあるエンジンを使ってるのではないかと。我々はなかなかそういうことはできません」(ニッサン松村総監督)
「予選はあの僅差。かつての(サクセスウエイト)10kg程度はほとんど影響がなかったですけど、今ではそのわずかでQ2進出が分かれます。予選はポイント順といいますか、ウエイトの搭載量次第で並ぶでしょうし、ここも含めてもう少し我慢で、次のSUGOから本格的な仕切り直しになるかと思います」(ホンダ佐伯LPL)
「明日も暑そうですし、そうなると予選も厳しいです。気温が高いと、やはり我々もなかなか普段どおりには行かないところがあります」(トヨタ佐々木氏)
長距離戦とはいえ、鈴鹿での予選グリッドがいかに重要かの認識を問うと、以上のとおり三者三様の答えが聞かれた。すでにシーズン折り返しの勝負は、走行前から始まっている。
