更新日: 2023.02.18 14:13
【関谷正徳のニッポン・レース改革論/第2回】女性の参加で変わるモータースポーツの未来
日本人初のル・マン24時間レース総合優勝者として、現役引退後は後進の育成や自ら立ち上げたカテゴリーの運営と、国内モータスポーツでさまざまな立場で積極的な活動を続けている関谷正徳によるオートスポーツweb不定期コラム。関谷氏が今、伝えたい、現在の日本モータースポーツ界への提言を『改革論』という形で訴えます。第2回目は、モータースポーツへ参加する女性をテーマに、将来の競争女子を主役にしたKYOJO CUP、そして未来のモータースポーツを語ります。
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みなさま、こんにちは。現在のモータースポーツを取り巻く状況は、世界的に見てもさまざまな自動車メーカーが“脱内燃機関”を掲げていますが、あまり現実的ではないと感じています。
モータースポーツでもF1、WEC世界耐久選手権、WRC世界ラリー選手権などがハイブリッドのレギュレーションになっています。ですが世界ではハイブリッドではなくEV(電気自動車)に移行しようとしています。ハイブリッドでは日本メーカーに対抗できないので飛び越えてEVにむかっているのです。
今はかつてで言う“パワー競争”がなくなった時代になり、今後のモータースポーツはどうなっていくかというと、私は二通りあると思っています。ひとつは当然ですがトヨタがスーパー耐久で研究している水素エンジンに代表される新しい技術の競争。そしてもうひとつは、多くのファンに“運転技術”をスポーツとして見てもらうモータースポーツです。このふたつは今後我々モータースポーツ業界が向かっていく方向性になるのではないかというのが私の考えです。
私が主催しているインタープロトシリーズ(IPS)はすべてのクルマとパーツがイコールコンディションで、ドライバーとチームがクルマをセットアップして速さを追求します。ですので、ドライバー自らがセットアップ能力と運転技術を持っていることでクルマを速く走らせるスポーツになっています。その部分としては、2017年に立ち上げた女性ドライバーによるシリーズ戦であるKYOJO CUP、そしてアメリカのインディカーシリーズも同様です。
近年、インディカーで活躍した女性ドライバーとしてみなさんが思い浮かべるのはダニカ・パトリックの名前が挙げられます。ですが、ダニカはオーバルコースでは活躍していましたが、ロードコースではそれほど活躍していないと記憶しています。
また、FIAのウーマン&モータースポーツ・コミッション(WMC)の議長を努めたミシェル・ムートンはWRCでも優勝を飾っているので、女性でもモータースポーツで勝てるという認識をしている人物です。ではなぜムートンがWRCで優勝できたかというと、ラリーはドライビング技術も必要ですが、路面ミューが低いということもポイントになります。ラリーにハードブレーキングや縦G、横Gはサーキットのレースほどはかかりません。それと当時は、アウディクワトロが4輪駆動のマシンでしたので、クルマのマージンもあったと思います。
ただハードブレーキングといっても、ブレーキング時の踏力はフィジカルの問題なので女性でもフィジカルが高まれば対応は可能です。ですが、フィジカルの問題だけでは解決しないスポーツ性がモータースポーツにはあります。私の考えでは、誤解されてしまう言い方にはなってしまいますが、それは男性と女性の“脳”の違いです。これはどちらが優れているという話ではなく、女性は女性脳、男性は男性脳という性質の違いが混乱を発生させているのかなと思っています。
女性だけのレースというとWシリーズが思い浮かびますが、Wシリーズの目的は女性F1ドライバーを育成することです。それはKYOJO CUPを開催している私の目的とはまったく違います。私の目的は男子テニスと女子テニス、男子ゴルフと女子ゴルフのように男女で異なるシリーズを争い、それぞれの世界をモータースポーツにも作ることです。