一方でベッテルは燃費セーブの必要に強いられ始めていた。
全開率が高いカナダは、2018年も全車が102.9kg以上の燃料を使った。つまりそれだけ燃費がギリギリになるサーキットなのだ。
フェラーリ:ステアリング上の数字は正しい。(それに応じた)アクションを取ってくれ
先頭を走り続けたベッテルに対し、ハミルトンは僅かでもベッテルのスリップストリームを使うことで空気抵抗を抑え燃費もセーブすることができていた。だからレース中盤から終盤にかけてこれだけの攻勢を掛けることができたのだ。
ハミルトン:彼はどこが速い? どこでさらに稼げる?
メルセデス:ベッテルの方が速いのはターン1〜2とターン8だけだ
ハミルトンはレースエンジニアのピーター・ボニントンから比較データを聞き、さらに自身の走りを尖らせていった。
ベッテルのレースエンジニア、リカルド・アダミからは毎周のようにハミルトンがDRS圏内か否かの警告がベッテルに伝えられる。
ベッテル:NO- DRS、NO- DRSって長く(明瞭に)言ってくれ
フェラーリ:了解
ハミルトンからのプレッシャーを受けナーバスになっていた矢先の48周目、ベッテルはターン3のアプローチでブレーキングを遅らせ過ぎてややオーバースピードで進入し、リヤがスライド。カウンターを当ててランオフエリアに飛び出し、ターン4のエイペックスをカットして真っ直ぐその先でコースへ戻ろうとした。
芝生からアスファルトへ戻ったところで急激にグリップを取り戻したマシンを、カウンターを当ててコントロール。その背後にハミルトンが来ていることは分かっていた。ベッテルはウォールにクラッシュしないよう懸命にマシンをコントロールしただけだったと主張したが、レーシングライン上にいたハミルトンはウォールとの間に挟まれそうになり、急減速を強いられた。
ハミルトン:彼はすごく危険なコースへの戻り方をした!
メルセデス:了解、報告しているよ
58周目に5秒加算ペナルティが科されたことを報告されたベッテルは、この裁定に納得できなかった。
フェラーリ:5秒加算ペナルティを科された。コース復帰が安全でなかったからだ
ベッテル:僕はあれ以上どこにも行きようがなかったんだ! グリーンに飛び出してタイヤに芝生がつきグリップを失っていた。もし彼がインに行っていれば抜けたはずだ、それは彼のミスだ。僕にどうしろっていうんだ、そんなのフェアじゃない!
フェラーリ:了解、冷静に。集中しろ
ベッテル:僕は集中しているよ。でも彼らは僕らから勝利をもぎ取ろうとしているんだ!
一方メルセデスAMGは冷静にパワーユニットのモードを切り替えてベッテルが5秒リードするのを防ぎ優勝をもぎ取る手段を講じていた。
メルセデス:ベッテルは5秒加算ペナルティを科された。彼のギヤボックスのすぐ後ろについていれば良いぞ
ハミルトン:パワーもっとない? 高速域でパワーがドロップオフしている
メルセデス:HPP2ポジション10
ベッテルはプッシュしてハミルトンを引き離そうとするが、燃費セーブの必要もあり、それもままならない。レース中盤に報告があったように、レースディスタンスではフェラーリもストレートの速さに優位があるわけではなく、スリップストリームに入りDRSまで使えるハミルトンを引き離すことはできない。
フェラーリ:OK、プッシュしろ
アダミからの指示を受けようとも、ベッテルはそれに応えることができなかった。
フェラーリ:プッシュしろ、ラストラップだ。持っている力の全てを出し切るんだ
70周を走り切り、ベッテルは1.342秒しかギャップを築くことができなかった。ペナルティ加算により2位降格となり、ハミルトンは今季5勝目を手にすることになった。
ハミルトン:これは僕が望んだ勝ち方じゃない。でももし壁に押しやられていなければ僕は彼を抜き去っていたはずだ。僕を支え自信を与えてくれて、みんなありがとう
メルセデス:おめでとう、ルイス。今週末はずっとソリッドだった、我々は勝利に値するよ