フェルスタッペン:彼が速いなら僕らもピットインしよう。
レッドブル:それはできない。もしピットインしたらハミルトンの後ろになってしまう。
しかしハミルトンとしてもここから先は決して楽な道のりではなかった。ピットアウト直後は2秒速かったラップタイムも、フェルスタッペンが必死にプッシュし始めてからは0.6~0.8秒差程度でしかなくなった。
メルセデス:VER(フェルスタッペン)はタイヤリミットになると我々は考えている。
ハミルトン:そんなの僕らもそうだよ!
メルセデス:VERは19.5
ハミルトン:19.5って言ったの!?
メルセデス:そうだ、フリーエアでパワーユニットはフルパワーで走っている。しかしキャッチアップできるはずだ。
残り10周を切ろうかというところで差は10秒。ハミルトンもタイヤの寿命は決して楽ではない。
メルセデス:レースの最後に追い付く。ラバーはほぼゼロになる。
ハミルトン:最後にタイヤがどのくらい残るか分からないよ。
メルセデス:そんなの関係ない。やれるだけやってくれ。
ハミルトン:ブレーキは問題ない?
メルセデス:大丈夫、マージンはある。
ハミルトンはここから1周2秒以上速いペースで猛攻を仕掛けて行く。
そして64周目、フェルスタッペンはタイヤのグリップが限界に達してしまった。
フェルスタッペン:タイヤが死んだよ。
レッドブル:了解。必要なら1周につき4秒間、4周の間オーバーテイクボタンを使っても構わない。彼が追い付いてきたら使え。
しかしオーバーテイクボタンによる加速がほとんど意味をなさないほど、タイヤのグリップ差は大きすぎた。あっと言う間にハミルトンはフェルスタッペンを射程圏内に捕らえた。
メルセデス:OK、ルイス。ギャップはもう伝える必要はないね。あとは君次第だ。
そして67周目のメインストレートでDRSを使うと一気に並びかけ前へ。フェルスタッペンは為す術なく首位を明け渡すしかなかった。
自分たちでさえ不可能ではないかと思ったほどの戦略、なり振り構わずタイヤを使い切る走りをしなければ果たせなかったほどの大逆転優勝を、ハミルトンとメルセデスAMGは為し遂げた。戦略責任者のジェームス・ヴァレスもチェッカードフラッグを受けた直後のハミルトンに直接語りかけた。
メルセデス:ワオ! なんてドライブ、なんて戦略だ! 良くやった! 本当に素晴らしいドライブだったよ。
メルセデス:ルイス、ジェームス(・ヴァレス)だ。厳しい戦略をよくやってくれた、本当にありがとう。
ハミルトン:ボノ(レースエンジニアのピーター・ボニントン)、ジェームス、本当に君たちはキッツいヤツらだな! 最高に良い気分だよ!
レッドブル・ホンダが急激に力を付け追い詰めたからこそ、王者メルセデスAMGが全力を出し切り、名勝負が生まれた。それがハンガリーGPの近年稀に見る激戦だった。