ルイス・ハミルトンは“パーティーモード”という言葉を使う。
「たぶん、ノックを出してるって意味だと思います。いまのPUはノックに制限されてしまうところが大きくて、ノックを出さないと出力が出ない、出力だけを優先するとエンジンが壊れる、そのバランスを見て使うんですね。ノックにどれだけ耐えられるエンジンを作るか、圧縮比の調整や燃料・空気の入れ方によってノックを抑えて燃焼させるか。その按排をみながら調整して使っていくことが大切なんです」
平均すると7回のグランプリ、5600kmの走行が必要なエンジンのライフを、田辺TDは「命を削りながら最後はゼロになる」と表現した。それを“貯金”とたとえるなら「いまの我々のスペック4にはスペック4の『連続して、どれだけ貯金を使っていいか』という傾斜が決まっているので、鈴鹿のために温存して、鈴鹿で急にバンバン使うってことは不可能なんですよ」とも。

だから、日本GPでもベストを目指す「仕事はいつもと同じ」――でも、きっと、鈴鹿では数えきれないほどの技術者の頭脳がフル稼働すると同時に“心”の部分が限界を超えるところまで後押しをする。
レッドブルとトロロッソ、Sakuraとミルトンキーンズ、その中心に身を置いて全力を尽くした田辺TDにとって、レース結果は結果、技術者として受け入れるべきもの。でも、当たり前に悔しい。表彰台でドライバーが笑顔を見せることができたなら、仲間の努力が、何の説明も必要とせず、大切なファンに伝わったはずだから――。
分刻みのスケジュールの合間に教えていただいた週末のディテールには、F1マシンを速く走らせるために注がれる多くの技術者たちの仕事と気概が込められていた。だから、悔しい。挑戦は、達成感と切なさを行き来しながら、噛みしめる暇もなく、これからも続いていくのだ。
